前編パンデミックの中で
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから2年が経過しました。世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)を宣言し、未知のウイルスとの戦いが続く中で、私たちは改めて健康と予防の大切さに気づかされたのではないのでしょうか。今回、コロナ対策の最前線にいる専門家を交えて座談会を開催し、これまでのコロナ対策や今後の見通しについて聞きました。聞き手はフリーアナウンサーの鈴木通代さん。(座談会は2月24日に実施しました)
<企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局>
パンデミックの中で
第6波オミクロン株 感染爆発の状況
- 鈴木
- 新型コロナウイルスはこれまで、感染拡大や収束、そして新たな変異株の出現など、経験のない出来事ばかりが続きました。今年はオミクロン株の感染が拡大していますが、県内の感染状況や病院の対応など、第1波から現在までを振り返りながらお聞かせください。
- 後藤
- 年明けから急増したオミクロン株第6波で、本県では1月は約1万9000人、2月は23日の時点で3万5000人もの感染者が発生しました。ちなみに昨夏の第5波の時は、全療養者数が5500人、病床使用率は73%でしたが、今年の第6波は2月10日時点で約1万3000人が自宅療養、400人がホテル療養、600人が入院と桁違いです。
県ではコロナ対策として、感染拡大防止、検査体制構築、療養体制構築の3本柱で取り組んできました。さらに国立遺伝学研究所(三島市)と連携し、ウイルスのゲノム解析も進めています。
- 白井
- 当院では、他の病院と連携して治療に当たる中で、第5波までの入院患者247名のデータをまとめました。平均年齢55歳、性別では男性がやや多く、体重は標準より多め、喫煙者は約40人いました。心疾患、糖尿病、腎疾患などの基礎疾患のある患者さんが多く、中等症以上のリスクが窺(うかが)えます。また、ワクチンの未接種者は9割以上と顕著でした。
- 古賀
- 緊急事態宣言が発令されたころ、感染への不安から、医療機関や健診施設への「受診控え」が全国で増えました。当センターも数パーセントでしたが、健診を受ける方が一時期減少しました。
- 中島
- 健診時にワクチン接種者の腋窩(えきか)リンパ節に、腫大や脂肪織濃度上昇の免疫反応、炎症反応のCRPの軽度上昇例が何例か散見されました。接種後に人間ドックや健診を予定している方は、検査に支障をきたさないよう、1週間以上空けることをお勧めします。また、肺のCT検査で、感染者特有のすりガラス状の陰影が見られた方もいました。案外、無症状の「隠れ感染者」は多いのではないかと、検査の現場から懸念しています。
- 鈴木
- 続いて、コロナ感染対策についてお聞きします。私たちは「マスクを着用する」「こまめな手洗いをする」「3密をさける」取り組みを徹底してきましたが、これまでのコロナ対策や病院での治療状況はいかがでしょうか。
- 後藤
- では、ワクチンについて説明します。新型コロナウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、国内ではファイザー社とモデルナ社の2社のものが使われていますが、どちらも仕組みや副反応に大差はありません。本県の接種状況は、全年代で全国平均より高い2回接種率を誇っています。ワクチンの3回目接種はオミクロン株の場合、接種後2~4週間目で有効率はぐんと高まり、10週間後も有効の状態が続きます。重症化回避のためにも、ぜひ3回目接種を受けてください。
- 白井
- コロナ感染時の特徴的な症例にウイルス肺炎があります。コロナ以前の肺炎は細菌性肺炎ばかりで、インフルエンザウイルスの肺炎も、ウイルス感染後の細菌感染続発による細菌性肺炎でした。私は30年以上呼吸器内科の医師をしていますが、ウイルス肺炎はごく少数例しか経験していませんでした。ですがこのコロナ禍で、ウイルス肺炎が毎日のように起きている。そんな一変した状況が続いています。 入院患者の治療法ですが、中等症2になると酸素療法が行われます。抗ウイルス剤、中和抗体薬、ステロイドなどの免疫抑制剤も投与されます。重症化するとECMO(エクモ)という、挿管人工呼吸治療が行われます。多くの方は1週間~10日で退院できますが、もっと長引く方もいます。
多様な後遺症 周囲の理解も必要
- 鈴木
- 新型コロナ感染症では、さまざまな症状や後遺症の問題もあります。健診や医療の現場で気づいたことはありますか。
- 古賀
- 主な後遺症として、倦怠感、味覚・嗅覚異常、咳、呼吸困難などが挙げられます。感染後100日ほどで症状の大半は治まってきますが、非常に早く症状が回復する方と、長引く方との個人差が見られます。
オミクロン株の主な症状は、頭痛、のどの痛みと発熱です。逆に、味覚・嗅覚障害はあまり見られません。また、今までのウイルス株が、肺胞で多く増殖して肺炎を起こしていたのに対し、オミクロン株は鼻腔や上気道で増殖しやすく、肺炎で亡くなる方は少ないことが分かっています。オミクロン株は感染力が強く、潜伏期間と回復する日数の早さも特徴的です。
後遺症は「筋・骨格系、内臓系」「神経系」「精神・心理系」に大別されるほど、多様な症状が見られます。また、脱毛の症状が長引いて、1年もたってからやっと回復した方もいました。さらに症状によっては、日常生活に支障を来す人もいます。倦怠感や記憶障害、抑うつ状態で職場復帰できない、周囲が辛さを理解してくれない、そして働けないために、経済的に困窮してしまうなどの社会的、経済的な二次的問題も起きています。
- 後藤
- 本県でも、後遺症の調査を昨年12月からしております。感染された方にインターネットでアンケートを行い、149人の方から回答をいただきました。「後遺症の中で一番辛かった症状」の問いに対して、回答では嗅覚障害、脱毛、味覚障害、倦怠感、呼吸困難が上位に挙がりました。また、就業している感染者のうち、3分の2の方が仕事に影響がでて、中には休職、退職、転職した方もいました。県では、後遺症の方の診療ができる医療機関を増やし、ホームページで紹介したり、後遺症で苦しむ従業員への理解を各企業に求めたりする訴えを、今後もしてまいります。
- 白井
- この感染症にはまだ特効薬はないのですが、後遺症で息苦しさや咳が長びく場合は、まず呼吸器内科にかかることをお勧めします。レントゲンやCT検査など、精密検査をすることで、何か打開策が見つかるかもしれません。ただ第6波の場合、今までの後遺症とは少し異なる症状が見られるため、ピークが治まってから、新たな後遺症がさらに出てくる可能性もあるのではとも考えています。
- 鈴木
- この2年間、新型コロナウイルス感染症の状況や症状の出方は一様ではありませんでした。ですがどの時期であっても、基礎疾患のある方や高齢者の重症化リスクの高さは変わりません。さらに、後遺症もさまざまで、生活に影響を及ぼすこともお話しいただきました。これらを踏まえて、私たちは常に正しい知識を持ち、今後の感染症対策に向けて、どう備えていくか改めて考えなければいけないと思います。