日本人の現代病といえば、「生活習慣病」の一つ、糖尿病。栄養の偏った食事、運動不足、遺伝的問題など、発症要因はいろいろあり、重い合併症も知られていますが、治らないと諦めるのは早いのです。薬の開発や生活改善で、発症を遅らせたり、治すこともできるようになりました。糖尿病の最新情報を3回にわたり紹介する「教えて!健康」シリーズの最終回は、「糖尿病治療の決め手は“諦めない”」です。
自分に合う薬を正しく
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- 遠山
- 糖尿病は「予備群」を含め多くなっていますが、治療の現状はどのようなものですか。最近、新薬が出たという報道があったようですね。
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- 村上
- これまでよく知られているのは、インスリンの分泌が低い人に、分泌を促進させたり、インスリンの作用や働きをより良くするような薬でした。間もなく登場する新薬は、これとは違う系統で作用します。健康な人は、食後でも尿の中に糖が出ていかないように、腎臓で糖をすっかり吸収する仕組みがあります。新薬は、腎臓でのこの仕組みをブロックし、あえて尿の中に糖を排せつさせて体内の血糖を下げる飲み薬です。
ただ、これについては注意が必要です。水分も同時に出て脱水状態になるので、高齢の患者さんは避けたほうがよいかもしれません。どのような状態の患者さんに適するかは今後の課題です。現在、糖尿病には多くの種類の薬ができています。一つの薬で効果が乏しい場合でも選択肢はありますから、治療を諦めないでほしいですね。
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- 遠山
- 人によって、合う薬、合わない薬はありますか。
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- 村上
- それはありますね。適応といいましょうか。やはり正しく薬を使っていただくことが大切です。
宅配食で無理せずに
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- 遠山
- 糖尿病の治療の基本は「食事と運動」になりますか。
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- 乾
- それが一番です。肥満予防と同じことですが、食事はその人の適正な総カロリー数を把握した上で、その範囲内で食べることと理解してください。運動についても、習慣づけること。気楽に続けられるよう、万歩計を使ったり、診療所の運動教室に通ったりするといいですね。
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- 遠山
- 食事管理については、糖尿病の本を読むとかなり大変そうです。診療所ではどのように食事療法をするのでしょう。
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- 杉山
- 食事を変更すべき点は一人一人違うので、管理栄養士に定期的に来てもらい、一人1時間かけてマンツーマンでやっています。2~6カ月に一度ぐらいのペースを何度か繰り返すと、だんだん体で理解できるようになります。
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- 村上
- 「食事療法は難しい」と思い込まず、入院中の食事の真似をすればいい、と考えてください。病院の療養指導士や栄養士に相談したり、宅配食を利用したりすると苦労しないでいいと思います。
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- 遠山
- 宅配食というのは、どういうものですか。
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- 村上
- 宅配食は、昔は高齢者世帯向けでしたが、今はカロリー別、腎臓が悪い人向け、減塩食などメニューが豊富。宅配食業者も増えて、外来にパンフレットを置ききれないほどです。業者は日本糖尿病協会の雑誌や、ホームページでも紹介されています。レトルト食品や材料だけの配達などもあって、便利です。
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- 乾
- 宅配食は割高なので、例えば一定期間、夕食だけ利用して適量に慣れるようにして、慣れたら自分で作り、また2~3カ月後に利用する、といったサイクルもいいと思います。大事なことは無理せず、長続きさせることです。
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- 遠山
- そういうものが利用できればだいぶ違うでしょうね。
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- 井上
- 一人暮らしの独身男性で血糖値のコントロールが悪いのは、なんでもコンビニで買ってきてしまうからです。食品成分表でチェックして、カロリーと糖質の量をチェックできればいいのですが、成分表を載せてない食材もまだ多く、そこが問題です。
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- 村上
- 糖尿病患者に、「指導を受けた食事療法を守っているか」を聞いた最近の調査結果をみますと、「あまり守っていない」「守っていない」で54%。半分以上の患者さんが食事療法を守っていないのが現状です。
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- 井上
- 「薬を飲んでいるから、何を食べても大丈夫だろう」と勘違いする人がいますが、食事療法は治療の基本。発症してから一生必要です。食事療法によって薬の副作用も減らせて、血糖値も落ち着き、合併症の発症も抑制できることを再認識してもらいたいですね。日本糖尿病学会は昨年、「食品交換表の第7版」を出版したので、それをぜひ参考にしてください。
問題ある糖質制限食
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- 遠山
- 最近は糖質制限食というのも市販されて関心を呼んでいますが、これはいかがですか。
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- 井上
- これは、「糖を食べなければ血糖値が下がる」「体重が減ります」「糖尿が治りました」がうたい文句のようですが、日本糖尿病学会が警鐘を鳴らしているところです。極端な糖質制限食は食後血糖値が下がり、一時的に体重が減少するので、一見良さそうですが、長期にわたると腎臓が悪くなり、心血管病やがんが増える可能性があり、健康寿命を脅かします。
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- 村上
- 糖質制限食については、2型糖尿病の患者を対象にした研究では、極端な糖質制限食によって全身動脈硬化が悪化すると報告されています。海外の論文でも死亡リスクが上がると報告され、日本糖尿病学会は極端な糖質制限食は勧められないとしています。
病診連携で患者を支援
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- 遠山
- さて、診療所というと、「かかりつけ医」という表現がぴったりですが、患者さんが診療所と病院の行き来をすることはありますか。
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- 杉山
- 診療所は、看護師や栄養士といったスタッフが病院より少なく、入院の設備もなく、大きな機器もないので、患者さんによっては、病院で検査や教育をしていただくことが必要な場合がどうしても出てきます。それが病診連携です。病院と診療所で連携して1人の患者さんを診る体制は静岡市では15年ほど前から始まりましたが、糖尿病ではまだ十分機能していません。静岡済生会総合病院と静岡医師会との間では、糖尿病の連携システムはできていますね。
それから管理栄養士のグループから栄養士を診療所に派遣・指導してもらう活動も静岡市内で10年ほど前から行っています。今は、県の栄養士会がその事業を引き継いでいます。
糖尿病は目の合併症も重要な問題なので、眼科医と糖尿病の主治医との間で患者さんを連携して診ていくことも10年ほどやっています。糖尿病の「眼フォーラム」を年1回開き、井上先生と眼科の松久充子先生が代表世話人を務めています。
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- 井上
- ほかに、歯科医科連携もあります。歯科医と行政も加わり、歯周病対策や糖尿病対策で連携して、希望される静岡県糖尿病協会参加の医療機関に歯科医が行って歯周病の講義や歯磨きの実践指導などをしています。現在、富士市と焼津市がモデル地区として歯周病対策により糖尿病管理が向上するかどうかを検証しています。
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- 遠山
- 糖尿病予防における保健師さんの活動はいかがですか。
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- 土屋
- 健診結果で「要受診」と言われても、なかなか病院や診療所に行かない人が多く、「健診後は、病院で受診してください」と勧める活動に力を入れています。一番大事なのは、「かかりつけ医」を持ち、「諦めないで治療する」こと。自己中断する人がかなり多いのです。
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- 乾
- そうですね、病院に来るのをやめたり来院が遅れたりすると、受診した段階では手遅れのこともあります。糖尿病が疑われたらぜひ、病院や診療所に来てください。糖尿病は一生付き合わなければならない病気なので、かかりつけ医としては「必ずよくなりますよ」と言って、食事療法や運動が続けられるための方法を一緒に考えていきます。医学的に限界はあっても、頑張れば、頑張った分だけ数字に表れるのが糖尿病。通院して治療を継続すれば、怖くありません。
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- 遠山
- 患者さんには、とても力強い言葉ですね。
では最後に、まとめをお願いします。
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- 井上
- 新薬の開発や再生医療の取り組みなど医療の進歩はありますが、制約もあるなど実際の効果は未知数です。ですから、患者さんや予備群の人が今やるべきなのは、食事と運動療法をしっかりやること。静岡県も65歳以上が25%を超える超高齢社会になり、認知症やがんの割合の増加は大問題です。そうならないよう早期診断で先制医療していく、それが大切です。
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- 遠山
- ありがとうございました。
企画・協賛/SBS静岡健康増進センター 静岡市駿河区登呂3-1-1 電話 054-282-1109
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