日本人の現代病である「生活習慣病」の一つが、糖尿病です。栄養の偏った食事、運動不足、遺伝的問題など発症要因はいろいろあり、合併症も多く、発症すれば食生活の管理が一生必要になるなど働き盛りには厄介な病気です。そこで、糖尿病を予防すべく、具体的な予防法や治療の今を、3回にわたり紹介します。「教えて!健康」シリーズ第1回のテーマは「糖尿病はなぜ怖い」です。
10年以上短い平均寿命
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- 遠山
- 日本人の生活習慣病の代表格、糖尿病では、失明や壊疽(えそ)による足の切断、人工透析が三大合併症といわれていますが、糖尿病はなぜ怖いのでしょうか。教えてください。
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- 村上
- 糖尿病は「心筋梗塞になりやすい」「血管の病気が早く来る」ことは知られていますが、最近の注目すべき話題は「がんの発症率が高い」ことです。
多くの研究結果によると、糖尿病がある人は、全くない人に比べて男女とも、肝臓がんは2・24倍、腎臓がんは2倍、女性は卵巣がんが2・4倍とはるかに高いのです。また、糖尿病の境界型でも、糖尿病がない人に比べて心臓血管の病気の発症危険率が2倍も高いのです。
その結果、糖尿病患者の寿命は、日本の2007年のデータで男女ともに、10年以上短命です。治療の研究開発は進んでも、20~30年前と比べて糖尿病患者の短命は改善されていません。
さらに、「認知症」の発症も、糖尿病のない人の1・2倍になることが注目されています。低血糖を頻発する患者さんに限ると、2・4倍にもなり、認知機能の低下を恐れなければいけません。
食生活で小児糖尿病に
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- 遠山
- では、糖尿病の特徴や症状など基本的なことを教えてください。
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- 井上
- 糖尿病は、自覚症状がない段階がかなり長い「沈黙の疾患」と言われ、臨床症状から診断するのは非常に難しいものです。著しく明らかな高血糖で口渇、多飲、多尿、体重減少などの自覚症状が現れます。さらに、長年にわたる慢性高血糖により、糖尿病に特有な合併症をきたすと、それに伴う症状、例えば、網膜症では視力の低下などが出ます。大事なのは自覚症状が出る前に対策を立てることです。
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- 遠山
- 人間ドックで健診していると、症状がなくても、若い人の多くに「糖尿病かな」という人がいます。本人は全く自覚していない。昨年までは良かったのに、今年は随分悪くなっているというケースがあります。臨床の場では、別な病気で受診して、糖尿病を疑わせる例はありますか。
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- 杉山
- それはよくあります。風邪などいろいろな機会に見つかることはあります。糖尿病の発症リスクは、家族歴のある人や肥満、運動不足の人が高く、高血圧や高脂血症の人もです。リスクが高い人は血糖を見ることも必要ですね。
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- 遠山
- 糖尿病は昔から「生活習慣病」と呼ばれています。一体、何歳ぐらいから気を付けるといいですか。
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- 杉山
- 糖尿病には1型と2型があり、1型はかなり若いときから発症し、極端なことを言えば0歳から発症することもあります。日本人の95%は2型糖尿病で、食べ過ぎや運動不足が長く続くと徐々に糖代謝が悪くなって発症し、40歳以降の発症が多くなります。国内では50歳で非常に増えています。私のところに来ている患者さんの年齢は40代から急に増えて、60~70代がピークです。
また最近問題なのは、小児糖尿病。小さいときからファストフードやスナック菓子をたくさんとって、小学校高学年から中学生ぐらいで発症して問題化しています。
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- 遠山
- これも生活習慣ですか。
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- 杉山
- そうですね。このうち8割を超える子が肥満児です。症状があまりないので気付かず、尿検査などで引っかかっても放置してしまうことが多く問題です。子どもではありませんが、20~40代の男性で初診時に体重が100キロを超える糖尿病患者さんが10人ほどいます。開業した20年前にはいなかったので、今はメタボリック症候群になるバックグラウンドがあるんだろうと思います。
一人紹介しますと、33歳の男性で、健診で空腹時血糖が130で、1年後に10キロ体重が減少しましたが、口の渇きや多尿になり、34歳の健診でグリコヘモグロビン(HbA1c)が9・6%で当院を訪れました。身長173センチ、体重122・5キロでBMI(体格指数)が40、腹囲127センチ。HbA1cが9・9%あり、まさにメタボ体形の若い糖尿病患者です。この患者の母親が2型の糖尿病で、生活習慣の影響が出る前で一番痩せているはずの20歳の段階で135キロもありました。
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- 遠山
- ということは、子どものころから太っていたんですね。これは親の責任になるのでしょうか。
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- 杉山
- そうですね。若い糖尿病では家族歴に糖尿病があることが非常に多く、家族が2型糖尿病の場合は、若いときから家族で食習慣や運動習慣に注意する必要がありますね。
二極化する糖尿病患者
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- 遠山
- ご高齢の場合はどうでしょうか。
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- 乾
- 高齢になって糖尿病を発症する患者さんはメタボではなく、むしろ痩せ形の人が大勢います。日本人は膵臓(すいぞう)でインスリンを分泌する働きが弱いので、極端な過食や運動不足がなくても、加齢やちょっとした生活習慣の悪化でも発症しやすいといわれています。高齢で痩せ形の患者さんにはあまり厳しく食事制限すると痩せすぎてしまうので、どちらかと言えば筋肉量を減らさないよう注意しています。
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- 井上
- 家族歴が疑われる高齢の患者さんには、糖尿病教室などを通じて、「お子さんやお孫さんの生活習慣も変えてください」とお願いしています。日本では「ペットボトル症候群」が多く、糖尿病のリスクを持っていることを知らずに、喉が乾いたときにペットボトル飲料を気軽に飲んで、血糖値が1000とか2000に上がって昏睡状態になって救急車で運び込まれて糖尿病と診断される人もいます。
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- 遠山
- そこまでいくと治療は難しいのでは。
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- 井上
- 命に関わることもあり、治療は非常に困難です。一般的に糖尿病のコントロールの悪い群は「男」で「若く」て「肥満」の2型糖尿病です。この群は手を尽くしても、HbA1cの改善が見られません。
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- 村上
- 私どもの病院でも、自己管理が困難で再入院を繰り返す人たちの特徴は、30〜50歳男性で、独身、一人暮らしが多い傾向が目立ちました。
県内男性の3割がメタボ
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- 遠山
- 静岡県は気候が良く、日照時間の長さは全国トップクラスと環境抜群ですが、糖尿病患者はどのぐらいいますか。
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- 土屋
- 3年に1回行う国民生活基礎調査によると、糖尿病患者は2010年度で人口1000人当たり37・9人。全国より低めですが、増えています。
また、県が11年度の医療保険者53万人の特定健診データを分析した結果、メタボや高血圧、脂質異常と県西部の数値は良いのですが、糖尿病予備群だけ県西部が多い。その理由の一つに、県独自の栄養摂取の頻度調査をみると、県西部はサツマイモやエビイモの産地だからかイモ類や煮物が多いのです。一方、メタボは県東部に多いんです。県東部はチャーハンや焼きそば、コロッケを食べている人が多い。伊豆半島は干物や漬け物、汁物、静岡市の海側の清水は赤身の魚などで、食べ物による地域性の影響も考えられるかと。
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- 井上
- 県西部の食生活が炭水化物に偏っている可能性はありますが、県西部で増加している糖尿病予備群はメタボ型ではないということですね。
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- 土屋
- また、体重増加について特定健診の受診者(40~75歳未満)25万3769人の問診票を分析したところ、20代以降に体重が10キロ増えたのは、全県で男性41・1%、女性は23・6%。53万人のデータによると、メタボは予備群を合わせて男性は3人に1人、女性は9人に1人で毎年ほぼ変動はありません。実は、静岡県はメタボ該当者が2年連続、全国で一番低いのにこの数値で、対策に困っています。
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