SBS静岡健康増進センター座談会 「教えて!健康」 運動はなぜ必要?

座談会参加者

  • 遠山和成さん

    遠山和成さん

    京都大医学部卒。県立総合病院の外科医長、副院長を経て、2006年から公益財団法人SBS静岡健康増進センター所長。検診マンモグラフィ読影認定医、日本医師会認定産業医。

  • 佐橋 徹さん

    佐橋 徹さん

    慈恵医大卒。東海大医学部講師、県立総合病院医長、県立大短大部教授を経て、2009年から公益財団法人SBS静岡健康増進センター副所長。日本産婦人科学会専門医、日本臨床細胞学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医。

  • 長﨑文彦さん

    長﨑文彦さん

    虎の門病院循環器センター医員、焼津市立病院循環器科科長、副院長を経て、2004年から長﨑内科クリニック、Drs.フィットネスNASA院長。

  • 芳村 直さん

    芳村 直さん

    昭和大医学部卒。芳村整形外科医院院長、静岡大教育学部非常勤講師、静岡市静岡医師会理事。日本整形外科学会認定医、同学会スポーツ医などを務める。

  • 白石葉子さん

    白石葉子さん

    新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。2010年から静岡県立大看護学部講師。看護師、助産師、保健師、健康運動指導士、長野県登山案内人。

運動はなぜ必要? 第3回 正しい運動方法を身に付けよう

運動の成果を回数や激しさで測る人がいますが、正しくありません。同じ運動をしても、食前、食後で効果が異なります。正しい運動方法を身に付けると、老後の生活も充実します。生活を豊かにする運動について紹介しましょう。

〈企画・制作/静岡新聞社企画事業局〉

老化は筋肉の量が減ること

芳村

整形外科的には老化は筋肉の量が減ることです。筋肉が減れば転びやすくなるし、エネルギー消費量も減りますから、メタボにもなりやすいということになります。

時々、「私は筋トレを100回やっている」という人がいますが、これは筋肉の量を増やすトレーニングではありません。筋力にかかる負荷が足りないからです。

「私は腹筋が1回もできないから、やらない」という人もいますが、実はこれが最大のトレーニングです。腹筋をしようと力を振り絞っているときに、最大の筋力を発揮しているからです。少し強い負荷をかけたほうが筋肉がつきます。

図1

佐橋

筋トレは1回もできなくても、努力することが大切です。それでもう十分、筋肉を使っていることになるのです。(図1)

長﨑

とっさの時に働く強い筋肉は、短時間に最大筋力を発揮するための努力が必要です。また普段、体を動かすときには、持久力が必要となります。「持久力アップの運動は息が切れる程度しないと、効果がない」というようなイメージがあると思いますが、誤解です。息の切れない程度のものでいいので、それをできるだけ長時間するのが大切です。

また、脂肪は20分運動しないと燃えないという通説がありますが、これも大きな誤解です。運動習慣のある持久力が高い人は、最初から脂肪が燃えます。

運動の後、食事、休息が原則

遠山

運動と食事のタイミングを教えてください。

長﨑

「運動した後、食事をして、休息をする」が原則です。食べた後、運動しても、その食べたものが有効になるわけではありません。運動した後、成長ホルモンが出やすくなります。そのタイミングで食事をすると、筋肉になります。運動後、1時間以内の食事が有効です。

体は食事をすると、必ずその食事を消化吸収するモードに入ります。消化吸収のために消化器系に大量の血液を送るのです。そのときに、体を動かし、筋肉に血液を送るのは不合理です。

特に持久系の運動選手は、2時間くらい前までに食事をとるのが原則です。最低でも1時間以上前に食事は終わっています。

ただ、仕事をしている人が食事をしてから運動に行くというケースが主婦などにあります。その場合は、食事の量を腹八分目にして、食事の後、30分から1時間は最低あけてほしいと思います。

また、糖尿病の患者に関しては、食後過血糖という問題があり、食後に運動する場合があります。

高血圧にも運動が有効

長﨑

私の医院に付属しているフィットネス施設は、朝9時半からスタートしますが、9時半に来たときに、血圧が150を超えている人は、1割程度います。さらに、血圧が160あるが、運動していいかという話になりますが、この場合は最初のうち、すごくゆっくりとした持久系の運動をしてもらいます。そして、例えば10分程度、軽い運動をするだけでも、血圧はすっと下がります。

運動選手がウォーミングアップをするように、高齢者は起きてから日常生活をするまでの間に、体を動かす準備状態をつくるために、運動選手の準備運動と同じような努力をしなくてはなりません。少し体を動かしてあげることによって、筋肉の中の毛細血管の機能などが活性化し、それだけで血圧が下がります。これが運動の直接効果です。

また、ゆっくりした運動を続けることによって、持久系の筋肉とその中の毛細血管が発達します。これにより血圧が徐々に下がってきます。これが長期的な効果です。80歳とか90歳でも、続けていけば、効果があります。

芳村

お年寄りなどひざが悪い人に適した運動もあります。(図2)

図2

骨、関節、筋肉が弱ると「ロコモ」に

遠山

最近、ロコモティブシンドローム(ロコモ)という言葉をよく聞くようになりました。

芳村

ロコモティブシンドロームとは、運動器症候群と和訳します。骨、関節、筋肉などの運動器の働きが衰えると、暮らしの中の自立度が低下し、介護が必要になったり、寝たきりになったりする可能性が高くなります。運動器の障害のために要介護になる危険の高い状態が「ロコモ」です。

運動器が弱ると、動くのが嫌になります。動くのが嫌になってしまってしまうと、引きこもりになり、運動をすることがなくなってしまいます。動かなくなれば、骨、関節、筋肉は弱くなり、悪循環に陥ります。

さらに動かなくなれば内臓機能が低下し、胃腸も働かなくなりますから、便秘になったり、下痢になったりします。あるいは喜怒哀楽がなくなり、精神的な機能の低下も引き起こします。

ロコモはチェックリストで見つけることができます。またトレーニングもあります。(図3)

白石

ロコモは生活不活発病から生まれます。例えば、高齢者の仕事や役割がなくなってしまうと、引きこもりがちになり、だんだんと体が弱ってしまいます。生活を活発にするための手立てが必要です。

遠山

運動に取り組むには、どのような心構えがあったらいいでしょうか。

白石

諦めないでほしいと思いますけどね。たとえ2週間ぐらいさぼってしまっても、そこでだめになるわけではありません。また復活すればいいという気楽な気持ちも必要だと思います。

佐橋

「明日やる」は絶対やりません。今日やりましょう。うまくいったら自分を褒めてやることですね。家事、入浴の時間をうまく使ったらどうでしょうか。

長﨑

長続きする人たちは、仲間がいます。仲間がいると楽しくできるんですね。

佐橋

人間は動物ですから、文字通り”動く物”でないといけないと思います。自分に合った運動の方法を身に付け、健康長寿を目指しましょう。

図3

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