運動が健康につながることは広く理解されていますが、厚生労働省の国民栄養調査によると、週2回以上、1回30分以上、1年以上運動している「運動習慣者」は男性28.6%、女性24.6%に過ぎません。運動をしていない人が一歩を踏み出すために、運動が必要な具体的な理由をあらためて考え、鍛える際のポイントを紹介します。
〈企画・制作/静岡新聞社企画事業局〉
人間は動かないと機能が退化する
遠山
運動はどうして必要ですか。
佐橋
健康な生活をするためには、体が健康で、日常生活に不自由があってはいけません。「歩く」「排泄」「食事」「入浴」「着脱」が人間の自立につながります。これらは、筋肉が動いて、骨が動いて、体が動く「運動」が基盤になっています。年をとっても不自由なく過ごすためには、筋肉や骨を保つことが大切です。
遠山
以前は手術の後、1~2週間寝ていることが一般的でした。今では術後、ごく早い時期に体を動かすようになりました。運動の大切さが重視されている証拠でしょう。
しかし、病気によっては体を動かしてはいけない場合はあるのでしょうか。
長﨑
けが、急性期の熱性の疾患、感染症の場合は体を動かすのは控えてください。それ以外の場合は、体を動かしても大丈夫です。心疾患でも心不全の急性期を除いては、できるだけ早くリハビリをするのが原則です。
人間も動物で、動くことで進化してきました。止まってしまうことで機能が退化し、本来持っている機能が低下します。動物は体を動かしていないと正常の機能を保つことができません。
芳村
かなり高齢な人でも、とにかく動くのが大切です。以前は何かをしてあげるのが介護でしたが、今は心を鬼にして自分でやるように仕向けるのが介護だと思っています。
持久系の筋肉を鍛えよう
遠山
スポーツ選手と違い、一般の人が筋肉を鍛える際の注意点は何ですか。
長﨑
例えば瞬発系の競技をする選手の場合は速筋系という強い筋肉を非常に高い頻度で使い、鍛えます。ところが一般の人がまねをして、速筋を鍛えるトレーニング多くしてしまうと、かえって健康を害してしまいます。
本来は持久系の運動の割合を多くして、瞬発系の速筋を鍛える運動の割合は少なくていいのですが、ジムへ行くと速筋系を鍛えるトレーニングが多くなりがちです。健康のための運動やスポーツではこの点に注意しましょう。
速筋系は多くの酸素を借金(酸素負債)して動くので、体に負荷がかかります。回復するのに大変、長い時間がかかります。また体の緊急時のシステムが主に作動するため体が傷み、健康にはつながりません。
遠山
一般の人が体を鍛えるときは、記録を求め過ぎてはいけないということですね。
長﨑
氷山に例えると、速筋は氷山の見えている部分、持久系の筋肉は水面下の部分です。プロの世界でもトレーナーは速筋を重視して選手にトレーニングをさせますが、基礎的に大切なのは持久系の筋肉です。日本では速筋に焦点を絞ってトレーニングをすることが多いので、若いころにつぶれてしまうケースも多いです。
マラソンランナーでは、海外の選手は一般的に選手寿命が長いです。ママさん選手も多くいます。持久系筋肉のトレーニングを大切にし、ハードな練習が少ない(頑張り過ぎない)のが要因の一つと考えられます。
世界で活躍できる選手は持久系の能力が非常に高いのが特徴です。半面、持久系の能力が低い人は非常にけがをしやすいです。
持久力を簡単に知ろう
白石
高さ40センチの椅子を用意し、胸の前で手を組んで座ってください。次に身体が真っすぐになるまで立った後、座ってください。30秒で立ち上がれる回数で持久力年齢が分かります。(図1)
女性は閉経後に備えて、運動で骨を増やそう
遠山
日本の食生活が豊かになっていますが、摂取カロリーは増え続けているのでしょうか。
佐橋
カロリー摂取量は最近、減っていますが、メタボや肥満は増えています。これは運動習慣の不足ということが大きな原因になっているのは明らかです。(表1)
遠山
検診で骨粗しょう症の検査をしていますが、検査を受けるのは女性が圧倒的に多いです。
芳村
女性の場合は閉経後に急激に骨塩量が減少するので、どうしても骨粗しょう症のリスクが男性より高くなります。
運動は骨密度を高くします。例えば運動選手のデータを見ると、サッカー、バスケットボール、柔道など、非常に負荷の強い運動の選手ほど骨密度は高くなります。当然食事も影響します。たんぱく質、カルシウムを取っていないと骨は強くなりません。
そして、一生で一番骨が強くなる時期(最大骨塩量)は10年ぐらい前までは30歳代くらいと言われていましたが、どうも10代後半から20歳程度で最大骨塩量になることが分かりました。
つまり、中学、高校の女子の運動量が将来、骨粗しょう症になるかどうかを左右しますが、部活離れが心配です。
中高年の女性も運動は有効です。ある程度の強い負荷のかかるバレーボールやバドミントンなどを楽しんでいる女性は、閉経期でも骨密度の減少を下げるのを防ぐことができる可能性があります。(表2)
運動が寝たきり高齢者を減らす
遠山
日本ではこの10年間以上、寝たきりの高齢者は年間1%強、増えているというデータがあります。一方、特に米国、ヨーロッパを中心にしたところを調べてみると、この十数年の間に15.6%減っています。食事というより運動が不足していると思います。
白石
脳血管疾患は、寝たきりのような要介護状態の一番の原因になっているのは確かです。ただ、寝たきりになる一歩手前の要支援者になった原因では、関節疾患や骨折・転倒など足腰の衰えに関係するものが30%以上と一番多くなり、運動不足と関係しています。これらの方が寝たきりに移行しないようにする事が大切です。欧米の高齢者は日本と比べ、自分で動いて生活しようとする人が多いと言われています。
佐橋
厚生労働省も介護を必要とせず、元気に過ごせる「健康寿命」を延ばすのに運動が役立つと考えています。
2013年~22年度の健康増進施策「第2次健康日本21」では、1日の平均歩数は、男性が10年の7136歩から8500歩、女性が6117歩から8000歩に引き上げようとしています。70歳以上では男性は4890歩から6000歩、女性は3872歩から5000歩を目標としています。
健康寿命は現在、70歳前後であることから、運動量を増やすことなどで、平均寿命を上回る伸びを目指しているのです。
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