SBS静岡健康管理センター紙面健康トーク「教えて、健康」

vol.3 体験者の声

 生活習慣病(がん、心臓病など)予防の重要性について意見交換する座談会「教えて、健康」(全3回)の最終回がこのほど、静岡市内で開催されました。県内の乳がん患者の会「あけぼの静岡」の星野希代絵代表と平成20年度に新たにスタートした特定健診を受診した市民を代表して、静岡市駿河区の榎田進さんが座談会で自らの体験を語り、健康づくりの在り方を話し合いました。進行はSBSラジオの鈴木通代パーソナリティー。
〈企画・制作/静岡新聞社営業局〉

座談会参加者

星野希代絵氏 「あけぼの静岡」代表
星野希代絵氏
榎田 進氏 市民代表・静岡市駿河区在住
榎田 進氏
望月秀樹氏 静岡市保健福祉子ども局保健衛生部長
望月秀樹氏
袴田光治氏 静岡市静岡医師会理事
袴田光治氏(袴田外科医院)
遠山和成氏 SBS静岡健康管理センター所長
遠山和成 氏
健診の“主役”それはあなたです
悔やまれる3年の検査空白期間
鈴木 最終回は、実際にがん治療を経験された方、特定健診を受診された方のお話を伺います。星野さんは、乳がんの治療を受けて、現在は、県内の乳がん患者の会「あけぼの静岡」の代表を務められていますが、これまでの治療の体験をお聞かせください。
星野 私は13年前、38歳の時に自ら乳房にしこりを見つけて、初めて診察を受けました。それまで、胃がんや大腸がんの検診は定期的に受けていたのですが乳がんだけはなぜか「遺伝的要素が高い病気で家族にかかった人がいなければ大丈夫」などと間違った認識を持っていて、検診は受けていませんでした。病気についても、あまり関心がなかったというのが正直なところです。
鈴木 確かに10数年前は、現在のようにマスメディアなどによる大々的なキャンペーンなども行われていませんでしたね。
星野 今のように”カミングアウト“する方も少なかったと思いますし、マンモグラフィー(乳房X線撮影)検査自体、浸透していなかったように思います。
鈴木 乳がんの知識があまりない中で当時、病院へ足を運ぶにも勇気がいる行動だったと思います。
星野 まず、産婦人科に飛んで行き、聞き慣れない「乳腺外科」を紹介していただきました。その時は、診断の結果、「線維腺腫」だとわかり、特に手術はしませんでしたが、先生からは「これからは毎年受診するように」と言われました。しかし、私は「乳がんじゃなかった。良かった」と安心してしまい、その後、先生のご指導を守らず、3年ほど病院には行きませんでした。次に病院に行ったのはしこりが大きくなってしまったことに気付いてからです。その時の検査で、乳がんであることがわかりました。告知を受けた時のショックは大きく、その日、病院からどうやって帰宅したのかも覚えていないほどでした。結局、私は乳房を切除する手術を受けました。先生の指示を軽視していたことを本当に深く反省しました。手術が成功し、おかげさまで再発することなく10年がたちますが、もっときちんと検査を受けていたら、小さい傷で済んだかもしれないと悔やまれます。検査して何もなければ良いことなのですから、ぜひ兆候が少しでもある方は、怖がらず定期的に検査を受けてほしいと強く思います。
鈴木 自らの経験が患者の皆さんでつくる「あけぼの静岡」の活動につながっているのですね。どんな活動をされているのですか。
星野 毎年、母の日に合わせて葵区の青葉イベント広場で、乳がんの早期発見キャンペーンやマンモグラフィー検査の受診啓発、自己検診の普及啓発などを実施しています。また、病院では、例えば、乳がん手術後の患者らに対して、不安を解消するために相談などに応じるボランティア活動を行ったり、さらに、月1回、メンバーが集まって語り合う「おしゃべりサロン」も開催しています。患者さんは病院にいる時より、退院して一人の時間ができたり、社会復帰したりする時が一番不安になります。また、病気の再発や抗がん剤の影響に対する心配もあります。実際、患者さんの中にはうつ病になってしまう方もいるほどです。ですから、同じ病気を経験した者同士が語り合う場は、大変意味のあることだと思っています。
患者同士の交流が心の支えに
鈴木 今まで経験したことのない状況の中、不安を抱える患者さん同士、話ができるのは大変大きな支えになりますね。
遠山 医者の立場からしても病気を経験した方が病院などで患者さんの相談に乗ってくださっているのは大変ありがたいことです。手術直後、患者さんはさまざまな思いにかられて、病気になった自分自身を変に責めてしまったり、必要以上に再発の不安を感じたりします。私も、ボランティアの方のサポートで立ち直っていく患者さんを大勢みてきました。会の役割は大変大きいですね。
鈴木 一方、一般の方々に活動を理解してもらうにはご苦労があったのではないですか。
星野 街頭キャンペーンを行っていると、今でも、40、50代で一度も検診を受けたことがないという人もいます。ただ、この2、3年で、マスメディアなどを通して、乳がんキャンペーンが随分広まってきています。有名女優の告白や、若い女性の乳がんをテーマにしたドキュメンタリー番組が放送されて以来、学生にも関心を持ってもらえるようになりました。実際に女子大生が私たちのボランティア活動に協力してくれて、街頭で啓発のティッシュペーパーを配ってもらいました。会のメンバーには28歳で発症した方もいます。若い人には若い人から呼びかけていただくことが大切だと思っています。
若い世代にも積極受診の習慣を
鈴木 こういった市民による取り組みと行政はどのように連携していったら良いでしょうか。
望月 従来の健康増進事業は、保健医療の専門家が住民の健康を管理するという考え方が非常に強かったのですが、最近では随分変わってきて、住民が主体的に健康問題に取り組む動きが根付いてきました。逆に専門家が住民を支援する側に回るケースが増えてきています。その中で、自分の健康は自らで守る個人の意識改革や姿勢がますます重要になってくると思います。
鈴木 では、医師の立場で市民に呼びかけていきたいことはありますか。
袴田 まずは健診を受けていただき、現在の健康状態を自らがよく理解していただく事をお願いしたいと思います。健診は単に悪いところを見つけるだけではなく、継続的に行うことで過去のデータと比較し、現在の健康状態がどう変わってきているかを専門家のアドバイスを受けながらその変化を確認することが大切だと考えます。そのため、なるべく早い時期から健診を受ける習慣を始めていただきたいと思います。
鈴木 平成20年度、新たにスタートした特定健診も健康を維持するために、もっと活用していく必要がありますね。
望月 特定健診では結果はもちろん、受診者全員に対してメタボリックシンドロームに関する情報を提供しています。静岡市の国保加入者で、心臓病や腎臓病で現在治療中の方の過去のデータを調べると、10年、15年前から、血圧や中性脂肪が高いという兆候がみられます。毎年、健診結果のデータを見比べながら、自分の健康状態のイメージをしていただくということが大事だと思います。また、受診した結果を大切に保管していただきたいです。
生活習慣病予防は「特定健診」から
鈴木 次に特定健診を受診し、実際に保健指導を受けた静岡市の榎田進さんに伺います。健康診断は以前から毎年受けていたのですか。
榎田 現役時代は職場で定期的に健康診断を受けていましたが、退職してから「自分のことは自分で守らなくてはいけない」と考え、特定健診を受診しました。
鈴木 健診の結果、特定保健指導も受けたそうですね。
榎田 血糖値や中性脂肪が高いという結果が出たため、特定保健指導を受けました。これは、生活習慣病予防のための適切な運動方法や食事について講習会などを通した指導です。食事については市の保健福祉センターで保健師さんや栄養士さんに直接ご指導をいただき、食事の取り方について具体的にアドバイスを受けます。このほか、これまでも、頻繁に散歩はしていたのですが、「ただ歩くのでは意味がない」と、正しい歩き方の指導を受けました。正しい姿勢で歩くと、驚くことに以前と同じ時間だけ散歩をしても汗が出るようになりました。ウエストも4 ほど縮みました。このように自分自身で健康管理を行って、成果を確認できるのは大変嬉しいことです。これからも趣味の登山や旅行を続けていくために「頑張ろう」という気になりました。また、ちょっと体の調子がおかしいなと思えば、すぐに近くのかかりつけ医に相談しています。
家族ぐるみでかかりつけ医に
鈴木 健診を受けているからこそ、日ごろから自分の体調がチェックできるということですね。それも、できるだけ、若い世代から受けてもらいたいですね。
袴田 これからの時代は単に健診を受けるだけでなく、健診を通して何でも相談できる『かかりつけ医』を持つことが必要だと思います。開業医の立場からみて、医療の最終的な目標はご両親もお子さんも家族みんなが同じかかりつけ医にみてもらうということ。これが、家族皆の健康を守っていくための理想的な形ではないかと思います。
望月 そうですね。特定健診は40歳以上からが対象になっていますが、30代でも希望される方には、静岡市の国保では受診できるような仕組みになっています。また、働き盛りの若い人たちに職場単位での健康づくりに取り組んでいただくことも大切なことなので静岡市でも「健康づくり連携会議」を設置し、職場における保健と地域保健の連携をどのようにしていったらいいか検討しています。
遠山 市民、行政、医師が連携してさまざまな取り組みを行って啓発していくことも大事ですが、最後に、市民の皆さんには健診が何のために必要なのかということを今一度考えていただきたいと思います。日本の高齢化は進んでいて100歳以上の人口は2008年のデータで既に3万6千人を超えています。2025年には16万、2050年には52万人に達するとも推定されています。高齢者がますます増えていく中で、やはり大切なのはそれぞれがお互いに健康で助け合って生きていくということ。老齢期に達しても元気で、少しでも人の役に立てるように生活することが一番です。健康で豊かに暮らすために健診を受ける―。その主役はあなたなのです。
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