SBS静岡健康管理センター紙面健康トーク「教えて、健康」

vol.2 特定健康診査

生活習慣病(がん、心臓病など)予防の重要性について意見交換する座談会「教えて、健康」(全3回)の第2回がこのほど、静岡市内で開催されました。静岡市福祉部保険年金管理課の藤岡進課長と静岡市静岡医師会理事の袴田光治医師(袴田外科医院)、SBS静岡健康管理センターの遠山和成所長が、平成20年度から新たにスタートした「特定健康診査」について、制度の仕組みや初年度の受診状況、今後の課題などを話し合いました。
進行はSBSラジオの鈴木通代パーソナリティー。
〈企画・制作/静岡新聞社営業局〉

豆知識 特定健康診査

平成19年の国民健康・栄養調査の結果、肥満、糖尿病をはじめとする生活習慣病の有病者・予備軍と推定される人は、5年前の調査結果から590万人増の約2210万人に上り、わが国の健康状態の悪化が深刻な問題となっています。この生活習慣病予防の徹底を図るため、平成20年4月から、40歳から74歳の医療保険加入者全員を対象に、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念を導入した「特定健康診査」の実施が各医療保険者に義務付けられました。この健診は、生活習慣の改善の必要が認められる人に対し、特定保険指導を実施するために義務付けられました。

座談会参加者

藤岡 進氏 静岡市福祉部保険年金管理課長
藤岡 進氏
袴田光治氏 静岡市静岡医師会理事
袴田光治氏(袴田外科医院)
遠山和成氏 SBS静岡健康管理センター所長
遠山和成氏
メタボ予防に「特定健診」の受診を
日本が導入したメタボの概念
鈴木 『教えて、健康』の2回目は、平成20年度から新たにスタートした「特定健康診査(特定健診)」について伺っていきます。まず、この特定健診はどのような成り立ちで始まったのでしょうか。
遠山 1990年代ごろから、先進国において肥満をはじめとする生活習慣病と、それに起因するさまざまな病気の発生が深刻化し、事態を重くみたWHO(世界保健機関)が2002年、先進国の生活習慣について緊急の提言を行いました。これをきっかけに、各国が一斉に肥満対策に取り組み始めたわけですが、日本人の肥満は遺伝子の関係から、内臓から太る、いわゆる内臓肥満型であったため、外見からすぐに肥満かどうかがわかる皮下脂肪型の欧米人とは異なり、肥満の判別が非常に困難でした。そこで考え出されたのが、肥満のリスク抽出に「腹囲」という概念を取り入れること。これが、日本においてメタボリックシンドロームという言葉を広め、特定健診の導入へとつながりました。
体を動かすことから生活習慣の改善を
鈴木 メタボリックシンドロームは、日本から生まれた概念だというわけですね。その原因は飽食の時代と呼ばれる現代の食生活にあると言われますが。
遠山 飽食だけが原因と一概には言えません。エネルギーの栄養素別摂取構成比を年代ごとにまとめた資料によると、日本では摂取カロリーが年を追うごとに減り続けていることがわかります(表1)。つまり、決して過食傾向にあるわけではないのです。にもかかわらず、肥満は減っていない。これはやはり、産業の発展により車やコンピューターといった、「人が動かずとも事が済んでしまう」便利さのおかげで、普段から体を動かさない生活スタイルに変わってきてしまったことも、原因の一つではないかと思います。
表1
鈴木 「肥満」や「内臓脂肪」と聞くと、すぐに食べ過ぎが原因なのではと考えてしまいますが、日本では運動不足も深刻な問題であるということですね。
遠山 もう一つ興味深いデータがあります。肥満度を表す指標であるBMI値の平均を、世代ごと男女別にまとめたデータでは、女性が年度を追うごとに、どの世代も値が下がってきているのに対し、男性は常に上昇しているのがわかります(表2)。これは、男性よりも女性の方が、日常的に「体を動かしている」ことの表れで、実際われわれのもとを受診される方の問診でも、運動習慣があるのは圧倒的に女性の方が多い。ですから、男性には特に意識して、日常的に体を動かしていただきたいですね。
表2
特定健診の内容とその受診状況
鈴木 次に具体的な特定健診の内容についてですが、今までの健診とどういった点が異なるのでしょうか。
藤岡 これまでの健診が病気の早期発見や早期治療を目的にしていたのに対し、この特定健診では、病気の予防という観点から受診者全員を対象に、一人一人の現在の健康状態や病気のリスクに合わせた、生活習慣の改善に関する情報の提供、アドバイスを受けられる点が大きな特徴です。特に健診の結果、要指導と判定された場合は、専門の医師や静岡市の保健師、管理栄養士による特定保健指導を受けることができます。
鈴木 受診すれば、生活習慣の見直しができるばかりか、専門家のアドバイスや具体的な指導を受けられるわけですね。どうやって受けたらいいのでしょうか。
藤岡 実施方法は医療保険者によって異なりますので、希望する場合は、まず加入している医療保険者に問い合わせてください。静岡市国民健康保険の場合、初年度となる平成20年度の健診は既に終了しましたが、次は6月から翌年3月までが受診期間となっています。対象となる方々には、受診券を5月の中旬ごろに発送する予定です。詳しくは、4月に各世帯に配布される冊子「健診まるわかりガイド」をご覧ください。
鈴木 初年度の受診状況はいかがでしたか。
藤岡 国民健康保険の場合、平成24年度までに受診率65%、保健指導率45%、それから糖尿病等の有病者、予備軍の10%減少が、国の目標値として設定されています。静岡市では、初年度の目標受診率を20%に設定していましたが、最終的な受診率は12%程度となる見込みです。
制度周知の向上が今後の課題
鈴木 受診率が目標に達しなかった背景には、どんな要因が考えられるでしょうか。
藤岡 特定健診や、健診結果によって、その後「特定保健指導」が受けられるという新しい健診制度についての周知不足が、主な要因として考えられます。
鈴木 特定保健指導は、具体的にどのようなことが行われているのでしょうか。
藤岡 静岡市の場合、市の保健師や管理栄養士などが実際に各家庭を訪問して、食生活の改善などについて保健指導しています。しかし、家庭訪問をしても本人に会えないことが多く、実際にお会いして保健指導が可能であった場合も、指導を受ける側の、生活習慣の改善や病気の予防に対する意識が、高いとは言えないケースが多いですね。
鈴木 制度の周知や、受診する側の意識向上のために、今後私たちができることは何でしょうか。
袴田 生活習慣病は、「異常を感じる自覚症状」がほとんどないのが特徴です。そのため自分の健康状態を把握したり、病気を未然に防ごうとしたりする意識を持ちにくい。たとえ特定健診を受診しても、その後も継続して、生活習慣を改善していこうという意識を持ち続け、それを維持していくのはとても大変なことです。しかし、前回のがん検診の時もそうでしたが、自覚症状が出てからでは遅いのです。
鈴木 自覚症状がない時に特定健診を受けていただくためには、何が必要でしょう。
袴田 われわれができることは、自ら意識して動こうとする気持ちを少しでも応援することです。この特定健診を受けることによって、いつでも身近に、何でも相談できる場や存在を持てるようになるなど、常日ごろから地域ぐるみで生活習慣の改善に向き合っていく環境を整えることが、非常に大切ではないかと考えています。
鈴木 特定健診においても、まずは自分自身が健康について関心を持ち、家族やご近所はもちろん、医療関係者や自治体も含め、地域全体で日常的にお互いの健康を気遣えるような環境を整えていくことが、重要だということですね。ぜひこの特定健診の制度をたくさんの方に知ってもらい、積極的に受診していただきたいですね。ありがとうございました。
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