SBS静岡健康管理センター紙面健康トーク「教えて、健康」

vol.1 がん検診

生活習慣病(がん、心臓病など)予防の重要性について意見交換する座談会「教えて、健康」(全3回)の初回がこのほど、静岡市内で開催されました。静岡市保健福祉子ども局保健衛生部健康づくり推進課の望月秀樹課長と静岡市静岡医師会理事の袴田光治医師(袴田外科医院)、静岡健康管理センターの遠山和成所長が、がん検診の現状と課題をテーマに話し合いました。進行はSBSラジオの鈴木通代パーソナリティー。
〈企画・制作/静岡新聞社営業局〉

豆知識 低い「がん検診」受診率

日本人の最大の死亡原因となる「がん」の発症には、喫煙、食事、運動、飲酒などの生活習慣が、大きく関わっているといわれています。このような生活習慣病を改善することを「一次予防」といい、検診によってがんを早期発見、早期治療することを「二次予防」といいます。「がん」予防は、早期発見・早期治療のために「検診」が最も大切です。しかし、受診率が依然として低いことが全国的な課題となっています。厚生労働省は平成23年度までに、がん検診受診率50%を目標に総合的ながん対策の推進に取り組み、静岡市でも受診率向上に向け、独自の普及啓発活動が行われています。

座談会参加者

望月秀樹氏 静岡市保健福祉子ども局
保健衛生部健康づくり推進課 課長

望月秀樹氏
袴田光治氏 静岡市静岡医師会理事
袴田光治氏(袴田外科医院)
遠山和成氏 SBS静岡健康管理センター所長
遠山和成氏
「がん検診」で健康チェックを
目標は受診率50%
鈴木 死亡原因の第1位となっている「がん予防」のための検診は、どこで、どのように受診できるのでしょうか。
袴田 がん検診には、胃がん、大腸がん、子宮がん、乳がん、肺がん、前立腺がんの6種類あり、働いている職場の保険組合が行う職場検診と、主に国民保険の方が受けられる行政が行う検診があります。もし、職場でのがん検診がない場合には、静岡市民ならどなたでも行政が行うがん検診を受けることができます。
望月 行政が行っている検診は、診療所や病院、健診センターなどで受けられます。また、地域の公民館や検診車を使う場合もあり、その場合は町内会や自治会単位で申し込みを行ったり、または直接医療機関に連絡をしていただいたりしています。
鈴木 身近な場所で検診できるシステムになっているということですね。では、静岡市のがん検診の受診状況はどのようになっていますか。
望月 平成19年度の受診率は、胃がん検診が10.6%、大腸がんが16.3%子宮がんが32.8%、乳がんは21.5%、肺がんが46.1%、前立腺がん19.5%で、国や県が策定したがん対策では、受診率50%(行政や職場での検診・個人で受ける人間ドックなどの検診も含む)を目標値として掲げていますから、それと比べても大変低いのが現状です。
鈴木 なぜ、受診率が低いのでしょうか。
望月 静岡市が平成19年の7月、市民2000人を対象に行った検診に関するアンケート調査では、受診しない理由として「受ける暇がなかった」が32%。「健康に自信があるから」が21・4%、「受診の仕方がよくわからないから」が20・6%、「悪いと言われるのが怖い」が15・1%、「受診を勧める通知がこなかったから」が12・3%でした。健康について自信過剰な方や病気を指摘されるのが怖いという方上位を占めたのは、意外でした。(表1)
表1
袴田 検診に対する考え方は、男女差があり、女性の方は比較的積極的ですが、男性はお仕事でお忙しいこともあり、女性に比べて消極的のようです。職場での健診がない方でも、何らかの病気で医療機関でかかっている方は、われわれ医師ががん検診をお勧めすることができますが、全く医療機関に通われていない方に、いかに啓蒙し健診を受けていただくかが今後の大きな課題だと思います。
海外にも大きく出遅れ
鈴木 がん検診は世界各国で行われていますが、海外と日本では受診率に違いがありますか。
遠山 世界の先進国と比べても日本の受診率は決して高くありません。それにはいくつかの原因があります。一つは国の施策。そして、やはり日本人の気質が関係していると考えられています。SBS静岡健康管理センターでも、検診はがんの早期発見を目的としているのに、異常が見つかっても二次検査に応じない人が多く、二次検査を必要とする方のうち、約60%は受けません。これは全国的な傾向です。さらに費用の問題もありますね。米国や英国のがん検診は国で負担してくれるので無料です。特に米国は検診や予防にお金を掛けます。その代わり、治療にはあまりお金を掛けません。日本と米国は予防や検診に対する力の入れ具合が違うのです。
鈴木 予防に力を入れる国とそうでない国では、病気による死亡率の統計に影響が出ていますか。
遠山 はっきりと出ています。女性の乳がん検診で行われるマンモグラフィー検査は、1980年代初めごろ、日本と米国でほぼ同時期に始まった検査ですが、米国が早いうちから取り入れていったのに対し、日本は費用の問題や検診の組織体制がうまく機能せず、導入が随分と遅れてしまいました。その結果、20年以上たって乳がんの死亡率は明らかに差が付きました。日本で死亡率が増えているのに対し、米国では減ってきているのです。また、がんの罹患、死亡数ともに増えているのは先進国でも日本とイタリアだけ。米国、英国のほか、ロシアも死亡数は減ってきています。(表2)
表2
社会全体でのPRが大切
鈴木 受診を呼びかけるPRはどのように行っていますか。
袴田 医師会では今後の予定として、5月に乳がん検診の市民講座を開催し、行政と乳がん体験者でつくる「あけぼの会」とともに乳がん検診の啓発活動を行う予定です。実際に闘病生活を体験なさった患者さんから生の声を聞くことは、非常に有意義だと思います。当日は実際にマンモグラフィー検診も行い、多くの方に検診の重要性をわかっていただく良い機会にしたいと考えています。
遠山 医師であっても、かつてはがんという言葉を軽はずみに人前で口にできなかった時代もありました。それが20年ほど前から、マスコミを通してがんキャンペーンが展開されたことにより、がんが正しく理解されるようになってきました。このように、メディアを通して社会全体に広く呼びかけていくこともとても大切だと思います。
鈴木 社会のこうした動きに合わせて、行政側はどのような広報活動を展開していますか。
望月 本年度は、医療制度改革により、がん検診、特定健診や介護予防健診などの健診制度が大きく変わったため、受診の仕方や受診機関を網羅した「健診まるわかりガイド」を作成し、全戸配布しました。また、広報紙やチラシなどのPRに加え、保健福祉センターが開催する各種講座などで普及啓発を行っています。新たに、「あけぼの会」や「県対がん協会」と共催で葵区呉服町での街頭キャンペーンの実施、公共交通機関を使った広告掲載のほか、受診していない方6万5千人に勧奨通知を出したり、女性用のがん検診手帳を作成・配布したりしています。
住民主体で受診率向上を
鈴木 受診率の向上を図るため、さらに工夫も必要だと思います。具体的なアイデアはありますか。
遠山 静岡市内で地域ごとに受診率を上げる目標値を設定し、1カ月の受診率の統計を出して住民に伝えるシステムを作るのはどうでしょうか。健康を維持していくには個人だけでなく、地域全体で頑張ろうという心構えが大事だと思います。地域の行政、医師会、住民それぞれが協力し、検診の受診率を上げていかなければならない時代にきていると思います。米国では目標値を決め、達成しないとペナルティーを科す地域もあります。やはり、検診に行かざるを得ないような雰囲気づくりが大切です。
望月 静岡市では「健康爛漫(らんまん)計画」を平成15年に策定し、住民主体で健康づくりに取り組んでいくことを推進しています。この計画を平成19年度に見直し、平成24年度までに静岡市のがん検診の受診率を50%にアップさせることも盛り込んでいます。目標を達成するには、そのためには市民の声を聞くことが大切だと考えています。例えば、働いている人たちを対象に、土日でも受診できるようにするのも一案です。今後も工夫を凝らして、目標達成に向かって取り組んでいきたいと考えています。
袴田 地域単位で受診率向上に努めることは非常にいい考え方だと思います。例えば、災害対策は地域ぐるみで行うことが進んでいます。町内会、自治会の代表が音頭をとって、地域ぐるみで受診していただきたいですね。
鈴木 これからは、自分自身がまず健康に関心を持ち、家族やご近所が力を合わせ、健康で幸せな生活を求めて、地域づくりに励むことが大切だということが分かりました。ありがとうございました。
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