SBS静岡健康管理センター 健康トーク 「教えて!健康」

慢性腎臓病に負けないぞ! 成人の8人に!成人の8人に1人の病気

第2回 生活習慣が影響する慢性腎臓病

 慢性腎臓病には、生活習慣が大きく影響しています。メタボ型肥満、高血圧、脂質異常症、喫煙など腎臓に負担をかけるものは多くあります。適度な運動、塩分やタンパク質の摂取量もポイントになります。健康トークの2回目は病気を予防する方法、万一病気になったときの対処法などについて語り合いました。

〈企画・制作/静岡新聞社企画事業局〉

 肥満、高血圧、資質異常症、喫煙が腎臓に負担

慢性腎臓病を防ぐ生活習慣

遠山
慢性腎臓病の合併症には、どのようなものがありますか。
向井
慢性腎臓病の人は心筋梗塞(こうそく)、心不全、脳梗塞などの心血管病を合併することが多くあります。腎機能が悪いほど、心血管病を合併しやすくなるのです。尿タンパクを伴うとさらに危険性が増します。福岡県の久山町で行われた研究では、男女2600人で慢性腎臓病のある人とない人を比較したところ、慢性腎臓病の人は12年間で約3倍も心血管病を発症しました。
アメリカの研究では、慢性腎臓病の大多数の人は、末期の腎不全に至る途中で心血管病で亡くなっています。
逆に心血管病の人が慢性腎臓病となるケースが多いことが分かっています。心筋梗塞を起こした人の3分の1は中等度以上の慢性腎臓病を持っているという報告もあります。慢性腎臓病の人は心血管病の合併がないか、逆に心血管病の方は慢性腎臓病がないか確認することが大切です。
遠山
糖尿病と慢性腎臓病の関係をお聞かせください。
佐々木
糖尿病が腎不全の進行に密接に関係しているということは、間違いありません。
糖尿病を放置すると、半分ぐらいの確率で糖尿病性腎症を発症します。初期の腎症は全く自覚症状はありません。しかし腎症発症後、15年ぐらいするとタンパク尿がたくさん出て、腎機能が急激に悪くなっていきます。明らかな腎症となってから放置しますと、数年のうちに腎機能は破たんし、透析のお世話になります。

(1)早寝早起き・十分な睡眠休養をとる
(2)ストレスをためない

ストレスがかかると交感神経を刺激 → 輸入細動脈が縮む → 腎臓への血流量が減る
→ ホルモンによって全身の血圧が上がる→糸球体が傷つく

(3)風邪をhかない(体を清潔にする

風邪をひき体が不潔になる → 細菌・ウイルス感染 → 糸球体で細菌・ウイルスの免疫反応 → 糸球体が傷つく

(4)ウオーキングなど腎臓に負担をかけない運動をする

●30分以上の激しい運動(中程度以上の運動)を避ける

水分補給しないと脱水症状に → 全身血流量が減少 → 腎臓に血液が流れない
→ ホルモンによって全身の血圧が上がる→糸球体が傷つく

(5)必要な薬以外は飲まない・使わない

腎臓から排泄(はいせつ)される薬剤 → 尿細管を傷める毒をもつ

(6)排尿をがまんしない

●排尿を我慢すると・・・・

(1)膀胱(ぼうこう)に尿がパンパンにたまる → 腎臓に尿が逆流する
→ 糸球体が圧迫されて傷つく
(2)膀胱に細菌がたまる → 尿中の細菌が糸球体に逆流する
→ 糸球体で炎症を起こす

メタボ型肥満は特に注意

遠山
肥満は腎臓にとって悪いのでしょうか。
腎臓への負荷が大きいですね。腎臓の中の尿を作る糸球体の数は人それぞれ決まっています。体重が増えても糸球体がたくさん増えるわけではなく、1個1個の糸球体にかかる負荷は増加します。
遠山
メタボ型の肥満と欧米型に多い単純肥満(皮下脂肪型肥満)があります。腎臓にとって差はありますか。
佐々木
内臓脂肪蓄積型のメタボ型の肥満のほうが悪いのではないでしょうか。血管を傷つけ、高血圧になり、ホルモンの異常で腎臓を傷めます。
血管を傷める因子は腎臓病に大きく影響します。メタボリック症候群、高血圧、脂質異常、高血糖などの因子が多くなればなるほど、慢性腎臓病の発症率が高くなります。
遠山
次は慢性腎臓病を防ぐ生活習慣について討論します。生活習慣病は高血圧症、脂質異常症、糖尿病と喫煙です。これらをコントロールすることが腎臓にとって大切だと言われていますが、尿酸の値のコントロールはいかがですか。
尿酸の値は下げたほうがいいですね。過剰な尿酸は血管を傷め、動脈硬化を促進します。
遠山
肉を食べ過ぎても尿酸は上がるわけですね。
肉の食べすぎはいけません。アルコールの飲みすぎ後の脱水も尿酸を上げます。痛風を起こす前でも尿酸は下げたほうがいいでしょう。糸球体の障害、尿細管障害を遅らせます。

喫煙習慣、資質異常も影響

遠山
たばこと慢性腎臓病の関係はいかがでしょうか。
向井
喫煙は血管を収縮させて腎臓の血流量を落としますし、血管そのものの障害も起こします。その結果、タンパク尿を増やし、腎機能を悪化させてしまいます。
遠山
たばこの本数は関係しますか。
向井
本数が増えれば増えるほど腎機能障害は進みます。20本以上吸っている人は、吸わない人に比べて末期腎不全に至る率が2・3倍というデータがあります。ただ本数が多いからよくない、少ないから大丈夫という問題でなく、本数が少なくても腎障害が起きますので、たばこは全く吸わないようにすべきです。禁煙により慢性腎臓病の進行を抑えることができるという報告もあります。
遠山
コレステロールは腎臓病に、どのように作用しますか。
佐々木
悪玉コレステロールの高値は血管を傷つけ、動脈硬化を進め、腎臓病の進行につながります。また一度腎臓病になったことで、コレステロールの代謝が変わり、悪玉コレステロールも増えやすくなります。さらに問題なのは、血管の悪玉コレステロールを肝臓へ戻してくれる善玉コレステロールが多くの場合は減ってしまうことです。
遠山
腎臓病に有効な運動はありますか。
岡村
一般的に運動は体の機能を活性化し、高血圧、高血糖、脂質異常症を改善します。
しかし、腎臓が悪くなっている場合、30分以上のハードな運動は血液中のクレアチニン(タンパク質が分解されたときにできる物質)を増やし、腎臓に負担をかけますので、ウオーキングなど腎臓に負担をかけない運動をお勧めします。また脱水状態になると血圧が上がり、腎臓に負担をかけることになりますので、運動するときは、水分補給を忘れないでください。

塩分制限をしないと効かない薬

遠山
日本人は塩の摂取量が多く、腎臓に負担をかけていますね。1日、どのくらいの塩分を取ったらいいですか。
岡村
日本では男性の1日当たりの塩分摂取量は10グラム未満、女性は8グラム未満、血圧が高い方は6グラム未満といわれています。また、腎臓の悪い人は基本的には6グラム未満と言われていますが、腎臓自体の働き具合によって異なるので、主治医の先生と相談してください。
向井
日本は「減塩後進国」と表現する人がいます。イギリスは既に6グラムを達成して、5グラムを目標にすると聞いています。
ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という高血圧の治療薬が慢性腎臓病の高血圧治療の第一選択薬となりますが、これらの薬は塩分を制限しないと十分に効果が出ません。
遠山
どうしたら、減塩ができるでしょうか。
岡村
加工食品やインスタント食品を利用する機会が増え、目に見えない形で塩分が体に入っていることがよくあります。
最近は食品の袋に塩分量が記されるようになりました。ナトリウム表示の場合は塩分換算する公式=下図=もあるので、以前に比べて塩分摂取量を把握しやすくなっています。自分が取っている塩分の量が分かると減らしやすいですね。
ナトリウムの量から塩分摂取量を算出する公式
遠山
お酒はどうでしょうか。
佐々木
アルコールに適合した人でも一定量を超えると、血圧を上げる効果があるので、腎臓に負担がかかります。適量、つまりビールで中瓶1本程度、日本酒では1合程度の範囲であれば、血液に対してよい影響もあると言われていますので、完全にやめる必要はありません。
遠山
タンパク質も減らす必要性があると聞きます。
食事中のタンパク質を減らすと傷んだ糸球体に対して余分な圧力をかけず、血圧も高くならないので、効果があると言われています。
ただ、タンパク質を減らすのは難しいのです。米の中にタンパク質が含まれるなど、意外なものにも結構入っています。タンパク質を減らすと、今度はカロリーが足りなくなり、バランスがとれなくなってしまいます。
タンパク質は何でも減らせばいいのではありません。米やパンに入っているタンパク質は良くありません。肉のタンパク質は良質ですが、量が問題です。タンパク質を減らす時には、栄養士と相談すべきです。

タンパク質制限で症状改善

遠山
タンパク質を制限する食事指導で一番困ることは、どんなことですか。
岡村
シラスにしてもマグロにしても、静岡は魚がとてもおいしく、食べすぎているという自覚があまりないことです。自分はどのくらい食べることができるのか、適量を知ることが大事ですね。
それから腎臓の機能がかなり悪くなってくると、タンパク質以外にも、野菜や果物に含まれるカリウムの制限も加わりますので、合わせて気をつけたいですね。
向井
私の診療所に通院していた慢性腎臓病の患者さんは、奥様が大変熱心で、毎回タンパク制限の話を栄養士に聞いていました。同程度の慢性腎臓病の知人があっという間に透析になったとのことですが、その人は幸いにも透析に至らずに済みました。奥様が「食事づくりを頑張ったかいがあった」と言っていたことが印象的でした。タンパク制限の食事指導は難しく、開業医ではなかなか徹底できません。病診連携で病院の栄養士にお願いして、しっかり指導していただく必要があります。本人と家族の理解とやる気が大切です。
座談会参加者

県立総合病院副院長
腎臓内科主任医長

森 典子さん

静岡市保険年金管理課参事

岡村 昌子さん

静岡市清水医師会理事
向井内科循環器科
クリニック院長

向井 英之さん

静岡市静岡医師会理事
佐々木内科循環器科院長

佐々木 玲聡さん

進行・SBS静岡健康管理
センター所長

遠山 和成さん

企画・協賛/SBS静岡健康管理センター