高まり続ける日本のがん死亡率
日本は「がん大国」と呼ばれています。日本人のがん罹(り)患率や死亡率は一 体どのくらいなのでしょうか。
- 袴田
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日本では年間約59万人が、がんにかかっていて、一生のうちに男性は2人に1人、女性は3人に1人ががにかかると言われています。また、平成19年の人口動態統計調査では年間約34万人が何らかのがんで死亡しています。男性で最も死亡率が高いのが肺がん、2番目が胃がん、3番目が大腸がん。一方、女性の一番は大腸がん、そして肺がん、胃がんと続き、意外かと思われますが4番目に乳がんが多いという結果となっています(表1)。最近の死亡率の傾向としては、男女とも胃がんは減少傾向で、大腸がん、肺がんが急激に増えている状況です。
日本はがんで亡くなる人が増えている一方、海外では死亡率が下がっているとい うデータもあります。
- 渥美
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米、英、仏いずれの国と比較しても日本のほうが、がんによる死亡率ははるかに高いという数字が明らかになっています。これは女性、男性どちらの場合でも言えます。つまり、日本は世界一の“がん大国”になってしまっているのです。理由は、高齢化、喫煙、飲酒などさまざまな点が挙げられますが、やはり、がん予防や早期発見に対する国を挙げての取り組みが、海外諸国に比べてかなりの年数において後れを取っていると言わざるを得ません。したがって国民のがん予防やがん検診に対する意識も各国に比べて低いと感じています。
- 鈴木宏
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平成19年に厚生労働省によって「がん対策推進基本計画」が定められ、10年以内の目標として「がんによる死亡者の減少」「すべてのがん患者およびその家族の苦痛の軽減、療養生活の質の向上」などが掲げられ、がんの早期発見のために平成24年度までのがん検診受診率50%以上が目標数値として定められています。
- 落合
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しかし、これは努力目標であって国民の義務ではありません。検診を受けない人に対するペナルティーもないため、行政が検診の通知を送っても市民にメッセージが伝わりにくい、すなわち受診率が一向に上がらないという深刻な問題に陥っているように思います。また、これは新聞報道によると、国立がんセンターがん対策情報センターの都道府県別の調査では、静岡県内の「がん診療連携拠点病院」を2007年に初めて受診したがん患者のうち、がん発見のきっかけががん検診や健康診断、人間ドックだった人は計21%と低い結果が出ているという情報もあります。
がん検診とがん死亡率には関連あり
がん検診を日本ではどのくらいの人が受けているのでしょうか。
- 渥美
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子宮頸がんと乳がんの検診受診率を各国で比べてみると、子宮頸がんは米国では83・5%に対し、日本は24・5%、乳がんについても米国が72・5%に対し、日本は23・8%にとどまっています。そのほかの胃がん、肺がん、大腸がんの検診についても日本の受診率は20~30%と厚労省が掲げる50%の目標値には、はるかに届きません(表2)。
日本人のがん検診受診率とがんの死亡率は関係していますか。
- 袴田
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大いに関係があると思います。米英両国のデータを見ると、受診率が50%に到達すると死亡率が減るということもわかっています。また、大阪府立成人病センターの「がんの発見経緯と臨床進行度」(1995─1999年)という調査結果では、胃、大腸、肺、乳房、子宮それぞれのがんの患者さんで、「検診」でがんが見つかった人と「その他」で病気がわかった人を比べてみると、「検診」で見つかった人のほうが、がんが臓器に浸潤する割合やリンパ節転移の割合などが低く、早期に発見されているということがわかっています。さらに、発見経緯別の5年生存率を調べた結果では、例えば、胃がんについては「検診」で病気が見つかった人の5年相対生存率は87・8%もあったのに対し、「その他」の状況で見つかった人の5年生存率は53・3%と生存率が30ポイントも下がる結果となっています。胃がんだけでなく、ほとんどのがんが、同じような傾向があると言えます。
- 遠山
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ところが、乳がんに関してはこの10年でよい方向への変化も見られています。早期のがんの状態で、ほぼ100%治癒(ゆ)する非浸潤がん(DCIS)の割合が少しずつ増えてきているのです。といっても未だ米国の半分以下ですが、キャンペーンが少しずつ浸透し、マンモグラフィー検診を受ける人の数が年々増えているからではないかと考えています。今後も検診数が増えるに従って死亡者数も減っていくものだと期待しています。ただ、乳がんの罹患率と死亡率を米英両国と比較すると、日本では罹患、死亡率ともに依然として上昇しているのに対し、米英両国は、罹患率は増えているのに死亡率は下がっているという状況です。これは、米国・英国ががん検診に大変力を入れ、その結果、早期がんの発見率が高いという成果の表れです。特に米国は、今から30年前の1980年ごろから、がん検診を国民の命を守るセーフティーネットと位置づけて、がんによる死から国民を守ることを目標とし、予防医学、統計学、栄養学などの観点からもきちんと調査して、検診費用も含めて国を挙げて検診に取り組んできました。今では世界各国が米国に追随しています。日本の現状に例えるなら、昨年来、欧米並みになったインフルエンザ対策と同様の考え方です。また、具体的な数値目標を掲げたり、検診を法律で義務付けたりしている国もあります。一方、日本は未だに検診をしない人が多いので、がんの中でも死亡に至る進行がんが増えている状況です。
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静岡市保健福祉子ども局
保健衛生部
健康づくり推進課長鈴木 宏明
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静岡市静岡医師会理事
(袴田外科医院 院長)袴田 光治
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静岡市清水医師会理事
(アツミクリニック 院長)渥美 清
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静岡県看護協会副会長
落合 敏子
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SBS静岡健康管理センター
所長遠山 和成
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進行(SBSアナウンサー)
鈴木 通代