「重要」の回答は97・4%
なぜ、今がん検診の受診が呼びかけられているのでしょうか。
- 鈴木宏
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がんは現代病ですから、実際にがんにかかる人が増えているのは日本だけでなく世界的に増えていることは確かです。しかし、がんによる死亡率は欧米で下がっているにもかかわらず、日本は逆に増えているということが大きな問題となっています(表1)。
その一番の原因は、日本人の検診の受診率が低いということ。内閣府が昨年発表した世論調査(平成21年8〜9月、全国の男女3000人が対象)では、がん検診について97・4%が「重要」と答えたにも関わらず、過去2年間に検診を受けた人の割合は、最高でも肺がんの約42%にとどまるなど、検診への関心度に比べて受診率が低い実態も浮き彫りになっています。また、肺がん以外の受診率は胃がん38・1%、子宮がん37・2%、大腸がん34・6%、乳がん32・3%で、どのがんも受診率が低いという結果が出ています(表2)。がんを予防し、健康な生活を送っていただくことは労働生産性の確保などの観点からも地域社会においてとても大切なことだと位置づけています。静岡市でも、受診率を1年に1%でも上げていくために広報活動などを通して、呼びかけているところです。
- 遠山
SBS静岡健康管理センターでもほかの検診センターなどと連携し、行政、企業関係なく、市民のがん検診受診率をきちんと一つにまとめてデータ化し、静岡市民のみならず、県民を挙げて受診率向上に取り組む必要があると考えています。日本は、がんを個人の問題と考えがちですが、米国ではとっくに社会問題、社会政策としてとらえています。「がんにかかる人が増えれば地域社会の中でこれだけの労働力が減る」というような考え方が必要だと思います。
- 落合
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がん検診の目的は、がんを早期で見つけて死亡率を減らすだけでなく、治療後のQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を高める狙いがあります。進行がんの治療後は、体力の低下だけでなく、再発への不安等の精神面、治療費等の金銭面の負担増など総合的にみて生活の質が落ちてしまいますから、なるべく早く見つけて、ダメージを少なくすることが重要ですね。
検診の無料クーポンで受診呼びかけ
国民に検診をきちんと受けてもらうための制度づくりへの課題も見えてきました。ただ、女性特有の子宮頸がんと乳がんについては、日本でも本年度から全国一律で特定の年齢の人へ年齢別の検診無料クーポンと検診手帳が発行されるようになりました。
- 鈴木宏
静岡市でも子宮頸がんについては20歳、25歳、30歳、35歳、40歳の方、乳がんについては40歳、45歳、50歳、55歳、60歳の方を対象に検診の無料クーポンと検診手帳を発行していますが、現状ではクーポンを使った受診率は15%程度となっています。クーポン券以外の静岡市の検診も10%から20%程度と低い受診率です。この数字は国民健康保険加入者などを主な対象としたものなので、企業や職場ですでに検診を受けているという人も結構多くいらっしゃいますから、この数字で一概に受診率が低いとは言い切れませんが、もう少し高めたいと考えています。
- 袴田
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県内でもお勤めの方は職場できちんと受けている方が多いと思います。が、企業、自治体両方の受診率を正確に把握するのは難しいと思います。また、検診が国の一貫した政策になってないのも課題で、もう少し、きちんとデータ化する必要があると私も思います。一方、日本で検診率が上がらない理由の一つに費用が高いというのもあるように思います。私の病院にも本年度からはじまった乳がん検診の無料クーポンを利用して検診に来られる方も少しずつ見受けられるようになりました。職場などで受けられない方は、もっと自治体の検診制度をうまく活用していただきたいと思いますね。
- 鈴木宏
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自治体の検診の案内を年齢対象の全市民に対して通知する形をとっている藤枝市は受診率が高いのです。静岡市でも年齢対象者全員に通知したらどうかというご意見もあります。規模の大きい静岡市では、全年齢対象者を把握するのが難しいという実情もありますが、今後の課題として検討していきたいと思います。
- 遠山
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海外のように条例で義務付けるのは難しいかもしれませんが、がんを個人の問題と考えず地域の問題、国全体の問題ととらえ「検診を受けなければ」という雰囲気にもっていかなければならないと思います。
精密検査を嫌がる日本人
例えば、大腸がんは検診で病気が見つかった人と、自覚症状が表れてからなど別の状況で病気が分かった人とでは、がんの進行度が違うそうですね。
- 渥美
全部のがんとは言えませんが、大腸がんはその傾向があります。大腸はポリープの段階では症状がありません。ですから、検診でがんやポリープが見つかってもその多くが早期で、開腹手術の必要がなく、内視鏡手術で済んでしまう人もいます。
検診での早期発見が重要ということですね。
- 遠山
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その通りです。ただ、日本で問題なのは最初のがん検診で気になるところが見つかって詳しい精密検査を受けるようお願いしても受けない人が実に多いのです。SBS静岡健康管理センターでは、大腸がんの便潜血検査で精密検査が必要な受診者のうち、69%しか精密検査を受けていません。でもこの数字は、全国的に見ても非常に高い数字で全国平均では約50%以上が精密検査を放置しているのが実情なのです。これではせっかく検診を受けた意味がありません。
- 落合
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根本的に日本人の健康に対する意識を変えなければいけないかもしれません。いわゆる健康教育ですね。われわれ医療に携わる側も、国民に対して「いつの時点で何の検診を受けていれば、何の病気を防ぐことができて、どれくらいの確率で健康を維持できる」、または「この段階で病気が見つかれば、軽い治療で、QOLを落とさずに生活ができる」などといったがんに対するわかりやすい具体的な説明が必要なのかもしれません。つまり、がん検診のメリットをきめ細かく伝えていくことが受診率を上げる一つの方法ではないでしょうか。
では、がん検診を受けるメリットを具体的に教えてください。
- 袴田
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部位、発見経緯別5年相対生存率のデータ(表3)をみると、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんを検診でみつけた場合は、5年生存率が90%前後もあります。ただ肺がんだけは残念ながら45%にとどまっています。しかし、肺がんが検診以外で発見されたケースでは、5年生存率は16%と非常に低いので、やはり検診で見つけることが重要だということに変わりはありません。
- 鈴木宏
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市民の皆さんにお願いしたいのは、がん検診は症状のない健康な人を対象に行っているということをぜひ認識していただきたいですね。症状がない状態で、毎年継続して受診することで健康を保ち、病気に対する恐怖感を減らすのが最良の方法だと思います。
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静岡市保健福祉子ども局
保健衛生部
健康づくり推進課長鈴木 宏明
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静岡市静岡医師会理事
(袴田外科医院 院長)袴田 光治
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静岡市清水医師会理事
(アツミクリニック 院長)渥美 清
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静岡県看護協会副会長
落合 敏子
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SBS静岡健康管理センター
所長遠山 和成
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進行(SBSアナウンサー)
鈴木 通代