第2部
大腸がん検診に迫る
大腸がんの罹患(りかん)者数が増える傾向にあるようです。イメージが先行して、恥ずかしさや不安から受診を控える方も少なくないようです。専門家の方々に検査の具体的な内容や傾向などを聞きました。
〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉
便潜血検査が主体 精密検査、勇気出し受診を
- 長谷川
- 第2部は「大腸がん検診に迫る」というテーマでお聞きします。大腸がん検診の方法は、便潜血検査が主体ということになるのでしょうか。
- 大野
-
便潜血検査は世界的に広く行われている検診方法で、有用であると証明されています。ただ、この検査でがんが確実に発見できるわけではありません。実は早期がんの方でも、陽性発見率は3~4割程度です。進行がんになった時点で、発見率が8~9割になると言われています。これは少し面倒かもしれませんが、精度を高めるために「2日法」という方法で、2日間にわたって便の採取をする必要があります。
さて、なぜ便に潜血反応、つまり出血があるのかということですが、大腸内にある腫瘍は大きくなるほど、表面が崩れやすくもろくなってきます。そのはがれたところから出血が起こり、便に付着するのです。直径1㌢に満たないがんもありますが、これらは出血しにくく、便潜血検査に引っかからない可能性が高いです。便潜血検査は有効な検査ですが、「便潜血反応が陰性だから、絶対にがんではない」ということではありません。 - 長谷川
- 小田さんはこの便潜血検査で要精密検査になり、直腸がんと診断されました。
- 小田
-
現在、私は検診普及の業務に就いていますが、罹患した8年前は、検査に対して何の知識もありませんでした。そこでいざ精密検査を受けることになった時、がんへの不安と共に、恥ずかしさや抵抗感も出てきてしまいました。「お尻に大腸カメラを入れたら、刺激でうっかり便が出ちゃうんじゃないか」「異性の医療従事者に検査されるのは恥ずかしい」など、誤った先入観や羞恥心が強かったのです。命に関わることですから、全く恥ずかしがる必要はないことと、どんな検査をするのかという正しい情報を、事前に知っておくことは大切だと痛感しました。
便潜血検査は静岡市の場合、40歳以上が対象で自己負担金がわずか300円で受けられます。非常に安価で気軽に受けられるので、恥ずかしがらず、ぜひ多くの方に検査を受けていただくようお願いします。 - 長谷川
- 実際、精密検査はどんな内容なのでしょうか。
- 大野
-
私が研修医だった約20年前は、お尻にバリウムを入れてからエックス線撮影をする注腸検査も多く行われていました。現在ではほとんどが大腸内視鏡検査です。大腸は食べ物のかすとかが残りやすく、バリウムだとポリープが分かりにくくなるのです。内視鏡の場合、直接大腸内を観察できますし、検査中にポリープが見つかれば、小さなものはその場で切除できます。
女性のがんの死因の1位は大腸がんですが、一般論で言えば、実はがんの性質としては進行が遅い部類に入ります。ですから早期発見できれば、かなりの確率で治ります。また、一生のうちに一度でも大腸内視鏡検査を受ければ、大腸がんで死亡する率が下がるというデータもあるほどです。
ただ、女性は羞恥心から検査控えする傾向があるようです。ですが、私たち医療従事者は検査を日常的に行っていて、腸内の病巣には関心を寄せますが、それ以外は全く気にも留めません。それよりも、一度も受診したことがない方や、便潜血法で要精検になっても放置しているほうが命にも関わり、その怖さは比較になりません。ためらわず、勇気を奮って受診していただきたいと思います。
また検査前の処置で、下剤1~2㍑をこまめに飲まなくてはいけないのですが、これを苦手に思う人もいるようです。近年では下剤の味も改良され、飲みやすくなっています。さらに今は検査にあたり、希望者には鎮静剤を用いた麻酔処置を行える検診機関も増えてきていますので、以前よりかなり検査は楽になってきていると思います。
- 古賀
-
健診で便潜血反応が陽性と分かったとき、今後どうしたらいいかという問い合わせを当センターにいただくことがあります。出血は、がん以外にも炎症やポリープ、潰瘍の可能性もあります。大事なのは便潜血陽性の場合、炎症や潰瘍などなんらかの病変があり、その中でがんが見つかる場合があるということです。
便潜血検査は早期がんのみならず、進行がんであれば発見される可能性が高いです。まずは検査を受けて陽性反応がでたら、さらに次の精密検査を確実に受けることが大切だとご理解ください。
- 長谷川
- 大腸がんだと診断された場合、どのような治療を行いますか。
- 大野
-
早期発見であれば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)で治療します。例えばS状結腸という部位にがんがある場合、肛門から20~30センチの位置にあるので、お尻からその長さだけ内視鏡を入れておなかを切らずにがんを切除します。また、外来でよく行われるのがEMRです。2㌢未満の早期がんや腺腫と呼ばれる腫瘍が対象です。粘膜下層に生理食塩水を注入して病巣を浮かせスネアという金属製の輪でつかみ、電気的に切り取る方法です。切り取った跡は数㍉程度の小さなクリップで縫います。クリップは術後2~3カ月以内に便と共に排出されます。多くは外来で行うケースが多いため、患者さんの時間的制約も少なくてすみます。
このように、日帰りで治療ができるまでに医療技術は進歩していますが、あくまでも早期発見で、がんが進行していないことが前提条件です。かなり進行してからの治療となると、開腹手術や薬物療法が必要となり、患者さんの体の負担や生存率にも大きな影響を与えてしまうのです。