第1回運動の意味
運動が健康につながることは広く理解されていますが、運動が習慣になっている人は多いとは言えません。平成28年のスポーツ庁の調査によると、1年間に運動をしなかった人などは36.5%に上ります。運動をしていない人が一歩を踏み出すために、運動が必要な理由を専門家にお聞きします。
1日の「不動」でも体の機能低下
運動はがんや精神面でも効果
- 長谷川
- 運動の意味と効果は何でしょう。
- 佐橋
- 誰でも運動をすると筋肉量は増して心臓や肺の機能も増強されます。
また運動によってがんによる死亡率も20%近く下がるという報告もあって運動習慣のある人とない人では寿命に大きな差があります。さらに最近、運動は精神的にも良い影響を与え、うつ病や認知症なども運動によって症状が改善されることもあるようです。 - 長﨑
- 人間は動くことで初めて体全体の機能が正常に保たれるようにできているため、動くことをやめると体全体の機能が落ちていきます。病気にならないためにも、体を動かす必要があります。
- 長谷川
- 逆に動かないと私たちの体はどうなってしまうのでしょう。
- 芳村
- 成人すると筋肉量は年間約1%ずつ減っていくと言われますが、動かないでいると1日に1%ずつ減っていきます。つまり360倍です。運動はし過ぎれば良いというわけではないので、自分の体力や体調を考えながら「自分がちょっと頑張ったなと思える運動」をしてほしいですね。ただ、「不動」は間違いなく問題です。
- 長﨑
- 近年、動脈硬化性の疾患が増えているのは、飽食になったにもかかわらず、運動量が減少していることが関係しています。運動しないと体の代謝が落ちて食べ過ぎた物を体内で処理できず、残ったものが酸化されてさびて、動脈硬化の元になります。また、デスクワークなど座る時間が長い人たちはがんになる確率が高いとも言われています。
- 長谷川
- 私たちの運動量はなぜ減っているのでしょうか。
- 長﨑
- 車の普及が一つの要因です。車の台数が増加するに伴い、運動する機会が減り、糖尿病患者も多くなっているというデータもあります。また、動かないことだけでなく、全体の食事の摂取カロリーは大きく変わらないものの、食事が欧米化し、脂肪の摂取量は非常に増えていることも生活習慣病や動脈硬化性の疾患が多くなってきている理由の一つです。
- 遠山
- 日本人は世界的に見ても圧倒的に運動量が少ない人種です。日本人の病気の中で最も多いのは腰痛ですが、これも運動不足が原因で、世界で上位です。また、40歳過ぎで、運動習慣がない人の筋肉は確実に減っていくといわれています。
日常生活の中で運動意識
- 長谷川
- どのような運動なら運動が不足している日本人でもやる気を出して始められるでしょうか。
- 芳村
- テレビを見ていても背伸びをする、デスクワークをしていてもこまめに屈伸をするなど「とにかくまめったく動く」「ながら運動をする」ことですね。私たちの日常生活の運動量は、50年前の40%にとどまっています。たとえ1日2時間運動しても、残りの時間にテレビを見てだらだら過ごしているなら、何の意味もありません。そういう人が腰痛になりやすいようです。健康のためには、1時間5キロ走って300キロカロリー消費するのも良いですが、地味でもコツコツと、常に動き回って歩くことの方が大切ですね。
- 遠山
- 私も毎日40~50分ほど歩くようにしています。そうすると徐々に速く歩けるようになって、体の痛みもなくなり、足が前へスッスッと出るようになりました。
- 佐橋
- 歩くことは器具はいらず、それ程ハードではないので安全といえます。
何か新しいスポーツを始めることを考えているよりは、まず歩くという癖をつけてみるのがよいと思います。
電車やバスでは一つ前で降りて自宅まで歩くだけでも、またエレベーター、エスカレーターは使わずに階段を使うような日常生活の中で運動を意識することが大切と思います。 これまでほとんど運動をしていない人にとっては十分な効果が期待できます。 - 長﨑
- 運動は長く続け、繰り返して初めて、効果が表れ健康につながります。日常で簡単に、いつでもどこでもできるという意味で継続しやすいのは「歩く」ことです。ほかにも、階段昇降、椅子に座ったり立ったりするという日常運動の基本を意識して行うことも大切です。さらに、その際には姿勢にも気を付けましょう。姿勢を保つのに必要な抗重力筋という体幹部の筋肉を鍛えることが大切です。
良い姿勢で歩こう
- 長谷川
- その筋肉はどのように鍛えればいいのでしょうか。
- 長﨑
- 歳を重ねると背骨や腰・お尻の筋肉が落ちてくるのですが、それは持久力のある「赤筋」が鍛えられていないからです。赤筋は、ゆっくり歩くことで育ちます。ゆっくりといっても歩く速さには個人差があるので、自分にとって「ちょうどいい速さ」を見つけることが肝心です。その時、腰が後ろへ落ちないように姿勢を保って歩くことも重要です。
- 遠山
- 歩くときだけに限らず、普段話をするときは背もたれのない椅子に座るようにしています。30年、それだけは粘り強く取り組んでいます。
15分連続歩行が持久力の基準
- 長谷川
- 今の自分の持久力を知る簡単な方法はありますか。
- 佐橋
- 30秒間で何回、椅子に座ったり立ったりを繰り返すことができるかを試してみてください。年齢・男女別に回数の目安があるので、基準値よりも著しく少ない場合は注意が必要です。ただ、多くの回数をこなせなかったからと言って落ち込むのではなく、トレーニングを続けることが重要です。運動をすれば、たとえ高齢者でも必ず筋肉量は増えます。効果が出るまで継続しましょう。
- 長﨑
- ほかにも、15分歩き続けるというものがあります。これはロコモティブシンドロームをチェックするテストの一つです。嫌な気持ちにならず15分歩くことができれば、それは持久力があると言ってもいいでしょう。
ロコモティブシンドロームとは骨・関節・筋肉など体を支えたり動かしたりする運動器の機能が低下し、要介護になる危険が高い状態です。 - 遠山
- 15分歩くというのは普段全く運動しない人にとってはなかなかの苦痛を伴いますし、膝や腰が痛いという場合は、無理をせずに行ってほしいですね。