日本人の現代病である「生活習慣病」。その一つが糖尿病です。栄養の偏った食事、運動不足、遺伝的問題など、発症要因はいろいろあり、深刻な合併症も知られていますが、逆に、食生活などを日頃から心掛けることで予防することも可能です。どんなことに気を付けたらいいのでしょうか。具体的な最新情報を3回にわたり紹介する「教えて!健康」シリーズの第2回は、「糖尿病予防は日頃から」です。
予備群には「介入」が必要
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- 遠山
- 糖尿病は発見が難しく、いろいろな合併症があることも分かりましたが、糖尿病は予防が可能でしょうか。特に「境界型」の人はどうしたらいいでしょうか。
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- 井上
- 糖尿病の発症予防は可能です。そういう意味で「先制医療」の対象です。「境界型」の人は「糖尿病予備群」と位置付けられます。健康な人の空腹時血糖が110未満、ブドウ糖負荷後2時間値が140未満ですから、「第1回」の表で示した糖尿病の基準値との間に属する人が「境界型」となります。この中でも高血圧症、高脂血症、肥満などを合併した人は年間5〜10%の割合で糖尿病に移行する糖尿病発症の高リスク群です。
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- 村上
- 境界型の糖尿病患者に、生活習慣を改善するよう指導することを「介入」と言います。放置すれば境界型糖尿病の4割が真の糖尿病を発症するのに対して、食事でカロリー制限し5%体重を減らす、運動を週150分するといった「介入」によって、発症する人を半分以下に抑えられることが分かっています。
実はこの40〜50年間、日本人のトータルの摂取カロリーは変わりませんが、脂肪の占める率が高くなり現在25%ぐらい。これが糖尿病の発症因子の一つになっています。
また、太っていなくても過信はできません。東洋人の膵臓(すいぞう)の働きはインスリンの分泌が低めの傾向のため、日本人は小太りでも予備群になるからです。
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- 遠山
- 予備群で発症を防ぐには、薬ではだめですか。
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- 井上
- 予備群には、保険診療で使える薬が1つあり、これなら発症予防は可能です。しかし、まず薬に頼るよりも、生活習慣の「介入」によって適正な体重を維持すれば、糖尿病の発症に至らないし、境界型から正常に戻すことも可能です。
「介入」の方法として対面式の有効性が証明されています。頻繁に生活指導の講義を受けてもらい、買い物も食事も一緒、調理も一緒にして、ようやくいい結果が得られています。しかし、コストパフォーマンスが悪く、臨床にはなじみません。日本の臨床試験では、対面式でなくとも電話やファクスを利用した指導でも発症を抑制できることが分かっています。
発症リスクが高い肥満
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- 遠山
- SBS静岡健康増進センターの保健師さんは予備群の人とメールでやり取りしていますよ。
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- 井上
- いいですね。インターネットを使って、健康産業分野に市場参入するメーカーが増え、スマートフォンに万歩計機能が付いたり、食べたものを撮影して送るとカロリー計算し指導を含めてフィードバックしてくれます。コストパフォーマンスが向上して、「介入」の精度も上がれば、放っておくと年間10%近く糖尿病に移行する人がかなり減ると期待できます。
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- 村上
- 糖尿病の発症には、遺伝歴がある人よりも、肥満の方が発症リスクが高いことが分かっていますから、高脂血症で、特に中性脂肪が高い人や高血圧の人は、カロリー摂取の制限、脂肪摂取の制限、運動が発症予防に極めて有効です。
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- 遠山
- うちのセンターの受診者は、脇腹をつかんでみると、がばっと皮下脂肪をつかめる人が増えたような気がします。だからといって、データ的には悪くありません。
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- 村上
- 肥満にも、内臓脂肪型か、皮下脂肪中心か、違いがあります。このうち、内臓に脂肪が蓄積する肥満が、高脂血症や糖尿病などを引き起こすことが知られています。特定検診で腹囲測定を行うのはこのためです。
バランスよくゆっくり
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- 遠山
- 肥満を予防するには、どういうことに気を付けたらいいですか。
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- 乾
- まずは、「規則正しい食生活」「運動習慣」「体重管理」になります。糖尿病の食事療法と同じことですが、「炭水化物をとりすぎない」「早食いしない」「食べるときは野菜から食べる」よう伝えています。懐石料理を食べるイメージに近いですね。
食卓には、主食(ご飯やパン)、主菜(肉、魚、卵など)、副菜(野菜、キノコなど)がバランスよく並ぶようにします。少量でもゆっくり食べるうちに血糖値が上がって、満腹中枢が刺激されるため食べすぎることがなく、理想的です。ラーメン・ライスやおにぎりだけでなく、おひたしやサラダを食べる、幕の内弁当にする、定食を選ぶ、などがいいですね。夕食が遅くなる人は、寝る前に食べすぎないように「つなぎ食」として19時ぐらいまでに軽くおにぎりなどを入れておくといいでしょう。
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- 井上
- 「体重管理」は食事療法でも大きなポイントで、その達成には適正なカロリー摂取と3大栄養素(炭水化物、脂肪、タンパク質)の比率を適正に保つことです。それには、健康な人の食事の栄養バランスを参考にするといいでしょう。日本人の平均的なカロリーバランスは、炭水化物55%、脂肪25%、残りはタンパク質です。アメリカでも炭水化物は55%ぐらいで、日米の健康な人の栄養摂取の比率とほぼ同じ。日本糖尿病学会では炭水化物は50~60%と幅をもたせていますので、あとは個人のし好などに応じて調整すればいいでしょう。
有効なウオーキング
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- 遠山
- 食事とともに運動も重要ですね。
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- 乾
- 1日30分程度のウオーキングを勧めていますが、忙しくてまとまった運動ができない患者さんには、通勤時になるべく歩く、会社でもエレベーターを使わず階段を使う、車より自転車にするなど日常生活での動作を増やすことを勧めています。実は、薬で血糖をコントロールできなかった患者さんが東京に転勤になった途端、血糖値が改善されて驚いたことがあります。通勤でよく歩くからなんですね。日頃から歩くだけでだいぶ違います。
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- 土屋
- 県でも3人1組で運動や食事で生活習慣の改善に取り組む「ふじ33プログラム」という活動を啓発しているところです。
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- 井上
- 運動するのは、食後1時間ごろから開始すると効果的です。インスリンやインスリン分泌促進薬で治療中の人は低血糖になりやすい時間帯があるので注意しましょう。
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- 村上
- 糖尿病患者の場合、運動を全然しない人と、しっかり運動している人を比較すると、よく運動している人ほど発症リスクが低いことが知られています。1週間の平均運動時間が1時間以内の人が発症するリスクを1とすると、週7時間運動した人は0・6にまで抑えられるといわれています。運動習慣のある人の方が、糖の消費が良好になり、発症リスクを抑えることが可能です。
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- 遠山
- 肥満予防にも発症予防にも運動は大切ですね。診療所では、専門の指導者がいるのでしょうか。
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- 杉山
- 糖尿病には「療養指導士」という資格があり、病院や診療所で、看護師や薬剤師などの実務経験が規定年数分あれば、受験資格があり、より的確な指導ができると思います。
特定検診で発見率向上
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- 遠山
- 静岡県は2012年に健康寿命が全国一になりましたが、特定健診の受診率はどうですか。
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- 土屋
- 県内の特定健診の12年度分の速報値(県健康増進課調べ)では、受診率は43・6%。また政令指定都市の受診率は、浜松市と静岡市が低く全国最下位に近いです。
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- 遠山
- 特定健診は自宅に送られてくる受診券を持って行けば、診療しているところならどこでも受診できるんですね。
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- 土屋
- はい。静岡県では特定健診とがん検診が同時受診できます。受診率を上げるために県や、市町の医師会は、受診対象者を会場までバスで送迎したり、土日に実施したりしています。また、県は6月に「受診キャンペーン」を展開して受診を呼び掛けたりしています。
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- 井上
- 糖尿病の有病率は、特定健診の普及と比例していますか。
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- 土屋
- 確定分析ではありませんが、市町村で10年たって初受診した人と、毎年受診した人を比較すると、発見率は全然違うというデータもあります。それで未受診者を訪問し「なぜ受けないのか」という調査もしています。
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- 遠山
- そういう作業は絶対必要でしょう。がん検診については、オーストラリアで「検診にプライバシーはない」という法律を作りました。検診で早期発見できれば、医療費がかからない、仕事も続けられて自分も周囲も助かる、だからプライバシーはないという発想です。受診率を上げて早期発見することが大事ですね。
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- 井上
- 今は新しい基準で、1回の採血で糖尿病の診断がつく時代ですから、ぜひ健診を受けていただきたいですね。
企画・協賛/SBS静岡健康増進センター 静岡市駿河区登呂3-1-1 電話 054-282-1109
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